今月は、サミュエル・スマイルズ(1812-1904)の『自助論』(三笠書房)を紹介します。
原著は”Self-Help, with Illustrations of Character and Conduct”、1857年にリリースされた作品で、中村正直によって明治時代初頭に初めて日本語に翻訳されました。その際の題名は『西国立志論』といい、福沢諭吉の『学問のすゝめ』とともに当時の青年たちを大いに奮い立たせ、総計100万部の大ベストセラーとなりました。
当時のイギリスの勢いは凄まじいものだったそうです。世界最強といっても過言ではないほど軍事力を保有しただけでなく、文化への貢献も怠りませんでした。「ユニオン・ジャックの翻るところに太陽が没することはない」とまで言わしめたそうです。そしてそんなイギリスを支えたのが、「自助の精神を持つ人々」であったとスマイルズは述べています。
「自助の精神」とはどういったものなのでしょうか。本文の言葉を引用すると、「外からの支配」よりも「内からの支配」を心がける者とあります。つまり自分自身を律することの大切さを本書で述べているわけです。その一要素として「タイム・マネジメント」を挙げています。
【時間にルーズな人間は成功の汽車に乗り遅れる】
時間の価値が正しく理解できれば、時間厳守の習慣も自然に身についてくる。ルイ14世は「時間厳守は国王としての礼儀だ」と語ったが、それは同時にわれわれの義務であり、ビジネスに携わる人間にとっての必須条件でもある。この美徳を守れば、誰よりも早く信用を勝ち得ることができ、逆にこの美徳に欠けていれば、たちどころに信用は失墜する。
他人との約束を守り、待ち合わせの時刻に遅れない人間は、自分の時間だけでなく相手の時間をも尊重しているのである。したがって誰かと仕事で会う場合にも、その人物が時間に厳格かルーズかを見れば、彼が尊敬に値するかどうかがわかる。
注目すべき点は、時間厳守は美徳であると同時に、相手を尊重していることの表れであり、その人物が尊敬に値するかどうかの基準となるとしている点です。つまり、時間を守る行為は、相手との信頼関係に欠かすことができない行為だということです。
また、その貴重な時間を大切にする価値観は、自分に与えられた時間の使い方にも影響を与えます。時間を大切にする人は、無駄な時間(無為に過ごす時間)を少しでも減らし、自分の将来にとって有益で、効果的な時間として活用することができます。
【愚者を大人物に変える「1時間」の差】
わずかな時間も無駄にせず、こつこつと努力を続ければ、積もり積もって大きな成果に結びつく。毎日1時間でいいから、無為に過ごしている時間を何か有益な目的のために向けてみるがいい。そうすれば、平凡な能力しかない人間でも必ず学問の1つくらいはマスターできるはずである。そしてどんな無知な人間でさえ、10年もしないうちにみちがえるほど博識の大人物に変わっていくはずだ。
時間は、学ぶべき価値のある知識を吸収し、すぐれた信念を養い、よい習慣をしっかり身につけるために使われるべきである。実りのない生活を続けて時間を浪費するなど断じて許されない。
あなたの周りで、スマイルズがいうように日々のわずかな時間を特定の勉強にあて、大成功を収めた人、または周囲からの尊敬や信頼を受けている人はいますか?
1日は誰にとっても24時間しかありません。1日のわずか約4%の時間である1時間を勉強やスキルアップに活用すれば、やがては大きな力となるでしょう。
1日1時間ではなく、15分でも大きな効果があるかもしれません。1日のわずか1%である15分間を投資し続ければ、1年間で約90時間になります。
スマイルズが説いた、自分自身を支配し、自分の運命を切り拓くことの大切さはいつの時代も、どこの国でも、成功するために避けることのできない原則といえそうです。