古典に学ぶタイムマネジメント|92回 フレデリック・ダグラス

米国の奴隷解放運動において指導的な役割を果たしたフレデリック・ダグラス(1818-1895)は、本国では小学校の歴史の教科書に必ず登場するほど広く知られた人物ですが、日本での知名度はあまり高いとはいえないかもしれません。
奴隷出身のダグラスが出版した自伝はさまざまな国でベストセラーとなり、アフリカ系米国人の存在を全世界に発信する結果となりました。また、1872年の米国大統領選で副大統領候補に指名されていますが、これはアフリカ系米国人としては史上初めてのことでした。
奴隷という境遇から抜け出して奴隷制廃止を訴え続けた彼の人生を見ていくことにしましょう。

●パンを与え、もっと価値のあるパンをもらう

私が実行してきたなかで最大の成功を収めた戦略は、通りで会う白人の少年たちと親しくなることであった。私は、親しくなると、少年たちを先生にした。さまざまな時間帯、さまざまな場所で少年たちに親切に教えてもらって、私はついに文字の読み方を学ぶことに成功した。(略)私はまた、オールド家(編注:当時ダグラスが仕えた家庭)に常にたくさんあるパンをよく持ち歩いていたので、いつも歓迎された。私は近所にいる多くの貧しい白人の子供たちより、その点でましな生活をさせてもらっていたのである。腹を空かした幼い悪ガキたちにパンを与え、私はそのお返しに知識という、もっと価値のあるパンをもらっていたのである。

現代では信じられないことに、当時は奴隷に教育を施すことは法律で禁じられていました。しかしダグラスが仕えたオールド家の女主人は事情をよく知らず、12歳のダグラスにアルファベットを教えてしまったようです。すぐに監視の目が厳しくなり、ダグラスが本を読んでいると取り上げられるようになりましたが、彼は独学で学習を継続し、とうとう読み書きをマスターしたのです。
上記はその学習における苦労を示したものですが、偶然に与えられたチャンスを自ら生かし切ったことが、彼の人生を大きく変えたといってよさそうです。

「7つの習慣」の提唱者である故スティーブン・R・コヴィー博士は、人間はいついかなる環境においても選択する能力を有していると説きました。彼は著書『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)において次のように述べています。

「人間の本質は周りの状況に作用することであって、作用されることではない。人間は自分の置かれた状況に対する反応を自ら選べるのであり、その選択の能力(ちから)によって、状況そのものを自分で生み出すこともできる」

ダグラスが置かれた環境はまさに絶望的なものでした。しかし、そのような環境においても人間は主体性を発揮できる、ということを彼自身が証明してみせたのです。

●絶望しかない隷属よりは死を望む

このように(編注:さまざまな奴隷が逃亡に失敗し与えられた残酷な罰の数々を指す)想像すると、ときには怖くなり、誰も知らないところに行くよりは、今舐めている辛酸に耐える方がましだと思わせるのである。 
逃げようと固く決心し、自由か死かを決めたときこそ、私たちはパトリック・ヘンリー(編注:18世紀アメリカ独立革命期の有力な指導者)が行なった以上のことをしたことになる。私たちには、せいぜい不確かな自由か、失敗すればほぼ確実な死が待っていた。それでも私は、絶望しかない隷属よりは死を望むであろう。

その後、前述のオールド家とは別のところで働き、読み書きができることを周囲にひた隠しにしていたダグラスは、何度か奴隷という境遇からの脱出を試みます。
幾度かの失敗を経て、奴隷用の通行証を偽造した彼は、数人の仲間とともにカヌーで海路から逃亡、地下鉄道と呼ばれた奴隷解放援助組織の助けを借りて、ついに奴隷制のない自由州への脱出に成功しました。

そして1845年、冒頭でも触れた自伝を出版すると、想定を超える反響を得ました。有名になりすぎたことから、元雇用主による告発や残された仲間たちへの報復が危惧されたため、アイルランドに渡り、同地や英国でも講演活動を行いました。
こうしたダグラスの一連の活動は、1862年のエイブラハム・リンカーンによる奴隷解放宣言へとつながっていきます。これを受け、ダグラスは「歓喜して叫ぼう。この正義が勝った瞬間を生きている限り忘れない」と述べています。彼の喜びがいかに大きなものであったか、想像に難くありません。

一方、どんなに筋が通っていたとしても、従来の常識や制度を覆す主張に対して大きな反発があることは避けようがなく、ダグラスの活動には常に告発や報復といったリスクが付きまとっていました。それでも彼は「奴隷が解放された世界」を心に思い描き続け、前だけを向いて、地道な活動を継続していったのです。

ダグラスほどの大義ではないにせよ、個人の行動が何かを変えていくきっかけになることは決して珍しくありません。規模の大小とは関係なく、我々一人ひとりが「流れを変える人物」になるためには、どんなことが必要になるのでしょうか。

前出のコヴィー博士は、著書『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、この問いに対する答えを述べています。

「人類に貢献できる偉大な人生を生きたい―誰しも内面の奥深くではそう切望している。本当に意味のある、かけがえのない人生を生きたいと。あなたは自分の能力を疑い、そんなことは無理だと思っているかもしれない。しかし私は、誰でもそのような人生を生きられると心の底から革新している。そのことをぜひ覚えておいてほしい」

強く願うこと。そして、信じ続けること。ダグラスもまた、自分自身や同胞、そして国の可能性を真剣に信じ続けていたからこそ、困難な中でも活動を継続することができたのであり、そうした蓄積がなければ、あの時期に奴隷解放宣言がなされることはなかったはずです。
自分自身と周囲の可能性を信じ、ひたむきに努力を続けることは、我々の目標達成においても大きな助けとなることでしょう。

(参考:『アメリカの奴隷制を生きる フレデリック・ダグラス自伝』、フレデリック・ダグラス著、専修大学文学部歴史学科 南北アメリカ史研究会訳、樋口映美監修、彩流社)

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