ジョン・ケネス・ガルブレイス(1908- 2006)は、フランクリン・ルーズベルト、トルーマン、ジョン・F・ケネディ、ジョンソンといった米国の各政権に仕えた20世紀最大の経済学者の1人であり、終生、ハーバード大学の名誉教授であり続けたことでも知られています。カナダの農家に生まれ、20代の終わりに米国の市民権を獲得、米国という巨大な国家の政策決定に対する大きな影響力を持ち、「経済学の巨人」と評された人物です。
●農家で働くことと比べれば……
とにかくこのまま大変な農作業を一生続けていくのはいやだという気持ちしかなかった。肉体労働を逃れたいという一心で勉強を続けたのだ。(略)これに比べれば、ほかのどんな職業も楽なものに見えた。(略)
ハーバード大学では週六時間以上講義を受け持つことは、研究の自由を侵害するものとさえみなされた。同僚から「あなたは仕事のしすぎではないか」と問われるたびに「あなたは農家で働いたことがないからそんなことを言う」という言葉がいつものどから出かかったものだ。
幼い頃から家業の農作業を手伝わされ、それが非常に苦痛であったことから、ガルブレイスは自らの使命を発見するに至ったのかもしれません。幸い、大学に進むことができたため、農業から逃れたい一心で、高いモチベーションをもって学び続け、その後、学者になってからもずっと勤勉であり続けたといいます。その仕事量たるや、同僚からも心配されるほどの凄まじさでした。
この「勤勉さ」の重要性について、スティーブン・R・コヴィー博士は、その著書『第3の案 成功者の選択』において、「クレッシェンドの人生を生きよう!あなたの最も重要な仕事は常にまだ先にある」と呼びかけています。「クレッシェンド」とは音楽の強弱記号の1つで、「だんだん強く(成長しながら)」という意味です。
すなわち、自分の使命をしっかりと見定め、そこに向かって勤勉にコミットし続けること。さらに、自らを成長させながら徐々にコミットを強めていくこと。激動の現代を生き抜く上で、常に意識しておきたい要素の1つといえるでしょう。
●経済発展の必要条件
ある朝、中国が停戦を提案してきた。それを聞いてベッドから跳び起きた私は、ただちにネール首相に会い、提案を受けるよう求めた。ネールも平和を望んでいたから私の意見を受け入れ、紛争は解決した。
それから何年かたって中国を訪問した時のこと。中国政府は、私がインドで中印国間の和平実現に努力したことを称賛してくれた。運が良ければ、戦争当事者の双方から和平の努力に感謝してもらえることがあるのだ。ブッシュ大統領がしていることよりも、おそらくましなことではないか。
経済発展に必要な条件として、もう一つ付け加えたい。それは平和である。
長年の友人であるジョン・F・ケネディが大統領に就任した際、ガルブレイスは駐インド大使に任命されました。そこで経済開発の支援とともに、コンピュータを中心にした教育支援を数多く行ったところ、インドの学力レベルは飛躍的に向上、その成果が、現在のIT大国インドの存在であるといっても過言ではないでしょう。
また、当時(1960年代前半)のインドが最も頭を痛めていた問題の1つは中国との紛争でした。ガルブレイスの尽力で話し合いを継続した結果、二国間のトラブルは上記のように解決に至り、和平が実現したというわけです。
コヴィー博士もまた、平和の重要性については、多くの発言を残しています。『第3の案 成功者の選択』では、「世界における第3の案」として、さまざまな平和的な物事の解決例を紹介しています。
平和維持活動にかけるコストをほんの少しでも経済発展に活用することができれば、世界中の経済発展は現状を遥かに凌ぐものになるはずです。ガルブレイスの「経済発展に必要な条件として、もう1つ付け加えたい。それは平和である」との指摘は、いつの時代においても通用する不変の原則といえるでしょう。
(参考:『ガルブレイスわが人生を語る』、ジョン・ケネス・ガルブレイス著、日本経済新聞社)