古典に学ぶタイム・マネジメント 64回 ローレンス・スキャッデンに学ぶ

ローレンス・スキャッデン(1939-)という名前に見覚えのある方は少ないかもしれません。しかし、障害のある人にもIT機器が無理なく使える「アクセシビリティ」技術の普及に大きく貢献した障害福祉の権威として、欧米では非常によく知られた存在です。彼自身、全盲というハンディキャップを背負いながら、優れたリーダーシップを発揮し、障害者の地位向上に尽力しました。その功績は数多くの受賞歴が物語っており、スキャッデン博士の母国・米国には彼の名前を冠した教職員の賞があるほどです。

●他人の見解を尊重する

私はアイデアや意見をまとめる自分の能力がいつ、どこで開発されたのかは分かりませんが、他人から称賛されると思われるようなオリジナルなアイデアを作り出す能力より、情報をまとめ上げる能力のほうが優れているとずっと感じていました。そこで、自分のこの最も重要な能力を使って、積極的にグループディスカッションのリーダーを引き受けているのです。(略)意見がまったく合わない人と膝を交えて、静かに議論することが難しいとは思いません。意見がまったく異なっている話題についてもです。相手に、私がその人の見解を尊重していることをすぐに分からせるようにすることが大切です。

今や、書店に行けば、営業術や交渉術といったハウトゥー本が所狭しと並んでいます。事前に質疑応答のシミュレーションをしておき、交渉相手の質問に賢く答えるというよりも、「うまくかわす」ことを目的としたかのような指南書の数々。表面的な切り口を変えただけの類書が次々に刊行され、引きも切らないこの状況については、消費する側の私たちもよく考えてみる必要がありそうです。

一方、スキャッデン博士は、「その人の見解を尊重していることをすぐにわからせるようにすることが大切」と上で述べています。小手先のスキルやテクニックにとかく頼りたがる風潮に、真っ向から対抗しているかのようです。

「7つの習慣」の提唱者である故スティーブン・R・コヴィー博士もまた、テクニックに頼り切ることがいかに本質から外れているか、自著の中で次のように述べています。

「偽善も悪意もなく真剣に理解しようとすれば、それこそ衝撃を受けるほど、相手のことが手にとるようにわかり、理解できることがある。このような理解はテクニックを超越している。テクニックだけでは、邪魔にしかならない」(『7つの習慣 成功には原則があった!』キングベアー出版)

テクニック自体はあるに越したことはありません。しかし、それ以前に、スキャッデン博士がいうような「相手の見解を尊重している」というマインドに目を向けることが大切なのです。

●主体性を発揮する

この本はただ自伝を書いたものではありません。私の体験の多くは人に語るには個人的すぎるものです。「トラウマ物語」を書くつもりもありません。誰もが何がしかの困難を背負って生きていて、私の場合はたまたまそれが、見えない、ということだったのです。しかし人間は適応力があり、柔軟性に富んでいます。困難があっても、楽しく、生産的に生きることを学ぶのです。

全く目が見えないというハンディキャップは、人生を豊かに生きようと願う魂にとって、あまりにも残酷な仕打ちのように思われます。しかし、できないことを嘆き悲しむのではなく、できることにフォーカスして人生を楽しもう、スキャッデン博士はそう考えました。決して希望を失わず、自らの可能性をとことん追求することによって、多くの障害者たちに勇気を与える貢献を果たすに至ったのです。

生まれ持った外見や資質、与えられた環境、周囲の人間関係。そうした要素を自らのパフォーマンスのエクスキューズにするのは、私たち個々の人間に限ったことではなく、国や地域、組織、さらには政治的な局面においてもしばしば見られるものです。

前出のコヴィー博士は、著書『7つの習慣 成功には原則があった!』において「問題が『自分の外にある』と考えているなら、その考え方こそが問題である」と前置きし、次のように述べています。

「主体的なアプローチは、インサイド・アウト(内から外へ)で変わることである。それは自分自身が変わることであり、自分が変わることによって、自分の外にあるものをプラスの方向に変えていく。自分はもっと才能を発揮できる、もっと勤勉になれる、もっと創造的になれる、もっと周囲と協力し合える、という考え方である」

変えようがないものにこだわり、そこから動こうとしなかったなら、スキャッデン博士の功績は存在せず、障害を持つ人たちがPCやIT機器を使いこなせる状況はずっと先のことになっていたかもしれません。

自分に足りないものを嘆くのではなく、自分に与えられているものをとことん活用したら、いったいどんなことができるのか。そう考えてみたら、何だかワクワクしてきませんか?

(参考:『期待を超えた人生』、ローレンス・スキャッデン著、岡本明訳、慶應義塾大学出版会)

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