『ビジネスマンの父より娘への25通の手紙』の著者キングスレイ・ウォードは公認会計士として活躍した後に、独立。さまざまな企業を経営し、成功を収めました。が、その矢先、2度にわたり心臓の手術を受けることになります。余命の価値を痛感した彼は、息子に向け、ビジネスとは何ぞやということを伝えようと、30通の手紙を送ります。後に娘に対しても25通の手紙を送り、これらがそれぞれ書籍となりました。どのような世代にも参考になるアドバイスです。息子への手紙、娘への手紙の中からそれぞれ1つずつ紹介します。
友情は手入れしよう
まずは息子に宛てた手紙から紹介します。
サー・ウィリアム・オスラーの名言は君に感銘を与えるだろう。「若者にとって、幸福に欠かせないものは友情の恵みである」。これ以上の真実はない。人生の山や谷で、同志以上に何を求めるだろう? 親しい貴重な友人以外の誰に、自分の成功を自慢し、失敗や損害の愚痴を言えるだろう?(略)
友情には手入れが必要である。牧場の柵を定期的に点検し、修理して牛の逃亡を防ぐように、友情の絆も点検し、ほつれを繕って、せっかくの友人が怠慢のせいで離れていかないようにしなければならない。
友情の育み方に注目した書籍は多いと思います。第一印象の磨き方から、好感度を上げるトーク・テクニックまで、ファースト・コンタクトへの熱は、いつの時代もかなり高いといえます。しかし本書は、友情の有用性を前置きしたあと、それらのメンテナンスに言及しています。それが引用部の後半部分です。
この点は『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)においても触れられています。信頼関係を維持する重要さを銀行の預金口座での残高にたとえて紹介する信頼残高の部分です。信頼残高とは、あなたとあなたがかかわった人たちすべてとの間に開設される信頼講座の残高のことで、あなたが相手からの信頼を高めるような行為をすれば、その人の信頼口座に預け入れをしたことになって残高が増え、あなたに対する信頼度合が増すという考え方です。もちろん逆も然り。
この口座、定期的に預け入れをしなければ目減りしてしまいます。道端で偶然旧友に再会したら、どちらもお互いの名を思い出せない、これでは信頼関係が構築されているとはいえません。
ウォードは牧場の牛にたとえています。せっかく築いた友情という名の牛が、あなたの牧場から逃げないように、あなたは何をしていますか。これから何をしていけばいいでしょうか。
今日1日を乗り切ろう
次は娘に宛てた手紙からの引用です。
困難な日々を乗り切るための鍵は、会社あるいは個人の長期的な目標から一歩退いて、短絡的な問題としてとらえ直すことである。それが一日単位で生きることである。この逆境を生き抜くための姿勢の基本は、ただ今日一日を― 一週間、一月、あるいは一年ではなく、ただ二十四時間の一区切りを ―乗り切れるように、気持を整理することである。(略)
「一日単位で」という姿勢で問題解決に取り組む場合、その効果が現れるためには、おそらく何にもまして、忍耐が必要であることを忘れないでほしい。我慢強さは、ことに若者には養いにくい特質だが、人生の戦いに備えるためには、必ず君の砦に配備しなければならない。
困難な課題に取り組んでいるとき、大きな壁が立ちはだかっていると感じるとき、短期的な問題としてとらえることを推奨しています。
たとえば、いきなりフルマラソンを完走するのは難しいことですが、数か月後にフルマラソンに挑戦することを目標に掲げ、毎日少しずつランニングを行うことはできるでしょう。その過程において、走る距離や、スピードの目標を達成するために、今日行うことに集中するのは非常に重要なことです。困難な目標も、毎日毎日の目標にブレイクダウンし、取り組んでいくことで、少しずつ道も拓けてくるでしょう。
しかしウォードは、1日に集中するということは、何にもまして「忍耐」が必要であるとも説いています。細分化された目標にばかり集中していると、目的意識を失いがちになるものです。しかも、明らかな成果を得るまでには、おそらく非常に時間がかかることでしょう。確かに忍耐が必要になります。
目標を達成するには、「我慢強さ」を「砦」にしなければならないのです。
(参考:『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』、キングスレイ・ウォード著、城山三郎訳、新潮社/『ビジネスマンの父より娘への25通の手紙』、キングスレイ・ウォード著、城山三郎訳、新潮社)