古典に学ぶタイム・マネジメント|75回 レフ・ダヴィードヴィチ・トロツキーに学ぶ

今回、紹介するレフ・ダヴィードヴィチ・トロツキー(1879-1940)は、ロシア革命において強いリーダーシップを発揮した指導者の一人です。
ロシア革命といえば、ロマノフ王朝による帝政が敷かれていたロシアという広大な国が、史上初の共産主義国家へと変貌を遂げるきっかけとなった歴史上の大事件です。この革命で大きな役割を果たしたトロツキーとはどのような人物だったのでしょうか。トロツキーの自伝よりエッセンスを抽出します。

●出かけなくちゃいけない

 私と妻とのあいだには、すでに二人の娘がいた。下の娘はまだ四カ月をすぎたばかりであった。シベリアの諸条件の下での生活はなまやさしいものではなかった。私の脱走はアレクサンドラ・リヴォーヴナ(編注:トロツキーの妻)に二重の重荷を負わせることになるに違いなかった。だが、彼女はただ一言、「出かけなくちゃいけないのよ」という言葉で、この問題をしりぞけた。彼女にとって、革命的義務はあらゆる他の考量、とくに個人的なそれを圧倒していた。

学生時代に共産主義にふれたトロツキーは、1900年、革命活動に深くかかわったという罪で4年間のシベリア流刑を言い渡されます。服役中にマルクス主義への理解を深めた彼は、2年後に脱走を企て、見事に成功。子ども2人を連れての脱獄は、想像を絶する困難であったはずですが、それでも脱走を決行したのは、上の引用にもあるように、彼の妻の声を借りたトロツキー自身の内なる声、「脱走して革命活動に参加しなくてはならない」という使命感だったのではないでしょうか。
故スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、その内なる声=ボイスについて、次のように描写しています。
「あなたの才能を生かし、情熱に火をつけてくれる仕事に取り組むとき、しかもその仕事によって満たされる世界的なニーズにあなたの良心が引きつけられるなら、そこにあなたのボイスがある。あなたの使命、魂の規範の声がある」
「その声は希望と知性に満ち、本質的に力があり、共通の利益に寄与する無限の可能性を秘めている」
脱獄の際の苦労は明らかにされていませんが、どんなリスクと引き換えにしても、一刻も早く脱獄して革命運動にわが身を捧げねばという、揺るぎない信念が彼を衝き動かしたであろうことは、想像に難くありません。

●将来のことを想像する自由

 ある晩、私のそばを通りすがりに、モイセイ・フィリポヴィチがもったいぶった調子で私にたずねた。「ねえ、きみ。きみは人生について何か考えているのかね?」この私の教師は、しばしば、冗談めかした言いまわしをしたり、茶化すような芝居がかった口調を使ったりすることがあった。だが、このときは、その言葉は私のもっとも痛いところを突いていた。

上の引用はトロツキーが中学生の頃のエピソードです。これを見る限り、当時のロシアにおける思想規制はかなりの厳しさであったようです。具体的な罰則などは不明ですが、思想の自由を保障されている我々とはかけ離れた教育環境下で彼が育ってきたことは確かでしょう。
前述の『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』の中で、コヴィー博士はこのようなことも語っています。

「人間にとって選択する能力は、生命そのものに次いで偉大な天恵である」
「本質的に、私たちは自分自身の選択によってみずからを作り上げるのだ。遺伝子や育ちによるのではない」

将来について想像したり選択したりする自由。それすら剥奪されるのは、自己形成能力を取り上げられることに等しいというわけです。
そうした中でもトロツキーは、革命家として歴史を変えるほどの大きな役割を果たすに至りました。それを成し遂げるためには、どれほどの強い決意とエネルギーを要したことでしょう。
今の我々は、才能や想像力を自由に使い、自らの意志で進むべき道を選択することができます。それをごく当たり前の権利と思える国や時代に生まれたことは、大いなる幸運として謙虚に受け止めたいものです。
そして、自由を保障されていればこそ、一つひとつの選択の精度を高めるべく自らを磨き続け、より豊かな人生を送るべく誠実に歩んでいくことは、与えられた権利と表裏一体の「義務」といってよいのかもしれません。

(参考:『トロツキー自伝』、トロツキー著、高田爾郎訳、筑摩書房)

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