古典に学ぶタイム・マネジメント|74回 ウィリアム・ランドルフ・ハーストに学ぶ

『市民ケーン』(1941)という映画をご存じでしょうか。アメリカの新聞王ケーンの怒濤の人生を描き、映画史に残る傑作として今なお愛され続けている名画です。
この主人公ケーンのモデルとなったのが、今回紹介するウィリアム・ランドルフ・ハースト(1863-1951)です。映画同様、「新聞王」と呼ばれ、数多くの新聞・雑誌・ラジオを掌握し、一大メディア帝国を築きました。19世紀末から20世紀前半のアメリカを象徴する風雲児は、いったいどのような人物だったのでしょうか。

●確固たる決意を持つ

 コール紙もクロニクル紙も、政治報道を得意としていたが、そのほとんどが地元政界の記事だった。両紙とも共和党を支持し、どちらもベテラン編集者が手がけていた。だが、ハーストはいささかも恐れなかった。(略)
 ボストン、ニューヨーク、ワシントンに住み、広くヨーロッパを旅したこともあるウィル・ハーストが故郷へ戻ってきたのは、それまでのエグゼミナー紙のような新聞、酒場のけんかの話や「冬物ドレス生地」だの「くしゃみ性カタル」の薬だのといった広告で第一面を埋める地方紙を発行するためではなかった。

20代前半、アメリカ東部の名門ハーバード大学に通っていたハーストは、突然、サンフランシスコへの移住を決意します。サンフランシスコ三番手の新聞『サンフランシスコ・エグゼミナー』紙を父親が手に入れたことから、大学も婚約者も捨てて、新聞社経営へと乗り出したのです。後の「新聞王」への道はまさにここから始まったといえるでしょう。

「ビジョンを通して自分にしかできない貢献を自覚し、情熱を持つことができる。ビジョンは重要事項を優先する能力、時計よりもコンパスを優先し、スケジュールやモノよりも人を優先する能力を与えてくれる」(『7つの習慣 最優先事項』〔キングベアー出版〕より)

「7つの習慣」の提唱者、故スティーブン・R・コヴィー博士の言葉です。地方の一新聞社からスタートして、最終的にいくつもの新聞を保有し、巨大なメディア帝国を築いたハーストも、この始まりのときから壮大なビジョンを有していたことは疑いの余地がないでしょう。

コヴィー博士は同書において「ビジョンは、人生のすべてを動かす原動力である」と述べています。

これは当時のハーストが過ごした1880年代でも現代でも、変わることはないはずです。どのような人になりたいか、どのような貢献を通して社会に還元しようか、常に意識している人とそうではない人とでは、パフォーマンスの質・量が異なってくるのは当然です。我々もまた、今一度ビジョンについて再考することで、結果を変えていくことが可能になるのではないでしょうか。

●流れを変える

 確かに、ニューヨーク市の政治は変わった。ハーストが現れるまで、タマニー派は共和党や第三党の改革派などほとんど無視することができた。(略)彼(編注:ウィリアム・ランドルフ・ハーストを指す)と彼の新聞は、ニューヨーク市の有権者が耳を傾ける言葉で語った。彼が移民地区に目を向けたことは、彼が労働者のストライキを支持し、ミルク、氷、ガス、市電の料金を値下げさせる改革を要求したこととあいまって、投票日に見事に花開いた。

1906年、ハーストはニューヨーク市長選挙に立候補しますが、残念ながらわずか数票の差で現職者に敗北を喫してしまいます。しかし、上に引用したように、彼がニューヨーク市、そして全米政治シーンへ与えたインパクトは、決して小さなものではありませんでした。

コヴィー博士は著書『偉大なる選択 偉大な貢献は、日常にある小さな選択から始まった』(キングベアー出版)において、「流れを変える人」という概念を紹介しています。

「流れを変える人とは、家庭や職場、地域社会において、世代から世代へと受け継がれ、あるいはどんな状況でも根強く残ってきた悪しき伝統や有害な慣行を断ち切る人である」

コヴィー博士のこの定義によれば、ハーストもまた流れを変える人であったといえるでしょう。

我々の日常に目を向けると、ハーストのように政治を根底から変えるようなムーブメントには至らないにせよ、流れを変える人というのは確実に存在しています。規模の大小はあれど、誰もが当たり前と受け入れていた常識を、根底から覆す人たちです。

ビジネスにおいても、日常に疑問を持ち続け、仮説を検証すべくさまざまな挑戦を行う人が、最終的には「流れを変える人」となり得るのです。
小さな疑問や気づき、そして改革や貢献への情熱。最初に起こしたわずかな流れの変化が、いずれは大きな推進力となって社会によい影響をもたらす。何かを始める前から、その可能性を否定する必要はないはずです。
我々も、まずは主体性を持って、受動的・依存的な生き方をやめることから始めてみることが大切なのではないでしょうか。

(参考:『新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの生涯』、デイヴィッド・ナソー著、井上廣美訳、日経BP社)

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