古典に学ぶタイム・マネジメント|第53回 トーマス・グラバーに学ぶ

趣のある美しい洋館が建ち並び、多くの観光客が足を運ぶ長崎のグラバー園。その中でも日本最古の木造洋風建築として知られるグラバー邸は、スコットランド出身の貿易商、トーマス・グラバー(1838-1911)の住居でした。

グラバーは1859年、母国の高校を卒業すると上海に渡り、現地の貿易会社に入ります。その翌年には日本に移り、勤めていた貿易会社の長崎代理店としてグラバー商会を設立。貿易業を行いながら、武器商人として討幕派をサポートするなど、日本が明治維新へと至る過程で大きな功績をあげました。その後も、明治政府や財界とのコネクションを活かし、さまざまな局面で日本の近代化に貢献した人物です。

●日本人への驚き

そのころ日本に渡来した多くの外国人は、清国と日本の差異に驚愕させられた。日本人社会に存在する規律と向学心にはめざましいものがあった。日本の社会ではすべてがあらかじめ決められていた。たとえば毎年五月五日になると、全国民が夏用の着物に衣替えした。九月九日には、全員が冬用の衣類にふたたび着替えた。

グラバーの日本に対する驚きと敬意が率直に述べられています。しかし、当時の日本の環境は、西洋人のグラバーにとって決して良好なものとはいえませんでした。特に治安面においては、西洋化に反対する勢力からの攻撃がいつ何時あるとも知れず、常に緊張していたとも語っています。

オリンピックの東京開催が決まり、日本国内ではこれまで以上にグローバル化への意識が高まりつつあります。経済成長の翳り、アジア諸国との激しい競争、国際結婚の増加、インターネットを介したタイムラグのないコミュニケーションなど、経済・社会・カルチャーにおけるグローバル化への流れは、今後もいっそう進んでいくことでしょう。

こうして世界との交流が当たり前になればなるほど、改めて自分の国の足もとを見つめ、他の国々との違いをよく理解し、自国ならではの長所や特性を活かしていくという姿勢が重要になることはいうまでもありません。

スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『7つの習慣』(キングベアー出版)の中で、「人間関係において最も大切な要素は、言葉でも行動でもない。自分がどういう人間であるかということだ」と述べています。

上のグラバーの発言には、単に日本がいいとか西洋がいいということではなく、文化の差異というものを冷静に見つめる成熟した視点が感じられます。

外を知るには、まず内から。激しいグローバル化の波にうっかり足をとられないためにも、自分自身の長所や自国の美点というものについて、ゆっくり見つめ直す機会を持ちたいものです。

●ビール醸造所の開設

オランダ人を通じて日本に紹介されたビールは、日本人の嗜好に合った。当初日本で飲まれていたビールは、すべてが輸入品であった。(略)数軒の小さなビール醸造所が日本でビールを醸造しはじめたが、それでも当時日本で飲まれていたビール総量のおよそ半分は、現地生産ビールのおよそ二倍はする高価格の輸入ビールが占めていた。グラバーはこの市場価格の格差に注目した。日本は、輸入物に比肩するビールを生産できる、規模の大きい第一級の醸造所を必要としていた。

1870(明治3)年、時代の変化を受けてグラバー商会は破産となりましたが、グラバーはその後も日本にとどまり、実業家として活躍しながら、財界とのパイプを活かし、今でいうコンサルタントのような役割も担っていたようです。

さらに、生来の起業家精神も手伝ってか、日本でビールを醸造し販売するというビジネスモデルを考えつきます。持ち前の人脈を駆使して資金集めに奔走しますが、このとき大きな支えとなったのが、コンサルタント業のクライアントでもあった三菱の社長、岩崎彌之助でした。

こうして生まれた日本初の本格的なビール会社が、皆さんもよくご存じの麒麟麦酒です。グラバーの着想が、現在のビール大国・日本へとつながっていることを考えると、一個人の創造力がもたらす影響力の大きさに驚かずにはいられません。

スティーブン・R・コヴィー博士は、『偉大なる選択 偉大な選択は日常にある小さな選択から始まった』(キングベアー出版)の中で、「創造的な人が往々にして幅広い方向に興味を持ち、勤勉なのは偶然でも何でもない」と述べています。

これは、卓越した創造力を持っている人は、自らの好奇心に極めて忠実に行動する傾向があり、その結果、興味の範疇が広がり、さらにそこを探究し、また新たな興味の対象が生まれ……という実行の連鎖によって、おのずと勤勉になっていく、という指摘です。こうしたことの積み重ねがさらに素晴らしい着想を生み、全体が有機的につながって、大きな成果をもたらすという、原則の話であるともいえるでしょう。

異国の地でさまざまな才能を発揮し、多大な富を築いたグラバーも、例外ではありません。優れた創造力の陰には、好奇心や勤勉さ、実行力という裏付けが存在していたのではないでしょうか。

(参考:『トーマス・グラバー伝』、アレキサンダー・マッケイ著、平岡緑訳、中央公論社)

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