アメリカ建国後、アメリカ西部の開拓を語るにおいて必ず名が挙がると言っても過言ではないルイス=クラーク探検隊ですが、これは時の大統領トマス・ジェファーソンからメリウェザー・ルイス(1774-1809)とウィリアム・クラーク(1770-1838)が命を受け、当時未開拓であった西部の端にある太平洋を探すために編成された探検部隊です。言及するまでも無くその旅は困難を極めました。探検隊の記録から、現代ビジネスにも適用できるエッセンスを抽出します。
●気遣いを重んじる
インディアンへの贈り物は合計六六九・五〇ドルに上り、予想支出のうち三割以上を占めていたことが注目される。それらの内訳は以下の通りである。(略)
この他に、片面にジェファソンの胸像、もう一面に白人とインディアンの結ばれた手が彫られ、「平和と友好」の文字とタバコと斧が交わるデザインが刻まれたメダルが多数用意された。これらのメダルは大きさが異なり、相手に応じて選ばれることになっていた。さらに、インディアンと探検隊が交流したことを示す証明書―ジェファソンの署名がすでになされており、当該部族長が署名するように空欄が設けられているもの―があった。
行く先々でネイティブ・アメリカンと遭遇することは想定内でしたので、探検隊は常に彼らと良好な関係性が築けるよう、さまざまな手土産を持参しました。良好な関係性は探検において非常に重要であり、地理情報はもとより、ネイティブの狩猟技術など、得られた情報はアメリカ発展に大きく寄与したものと想像されます。しかし記録によれば良好な関係が築けたケースは稀であり、もしこれらの手土産が無ければ探検はさらに困難なものとなっていたかもしれません。
ビジネスにおいて良好な関係性を築くことは顧客相手のみならず、自身の組織においても大変重要であることは、言うまでもありません。しかし組織のリーダーがその役割を認識しているケースがあまり多くないかもしれません。リクナビNEXTによれば、転職者の退職理由において1位は「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」ためであったそうです。そういった組織において良好な関係性が築かれていたのでしょうか。
「7つの習慣」を提唱した故スティーブン・R・コヴィー博士は著書『第8の習慣 効果から偉大へ』(キングベアー出版)において次のように述べました。
リーダーシップとは、人がただ組織のために働くのではなく、組織の一員になりたいと思える環境を育むことである。リーダーシップは、仕事を「やらされる」のではなく「やりたい」と思わせる環境をつくる。このような環境は企業にとって不可欠である。
書店に足を運べばビジネススキルを紹介する本が氾濫していますが、まずはこのような原則を見つめなおすことが必要です。
●道徳的ジレンマとの戦い
前年、この辺りを通ったとき、クラークは膝と腿の痛みを訴えていた男と腿に腫れ物のできていた男の二人を治療したことがあった。そのために彼は優れた医者であるという評判が知れ渡っており、多くのインディアンが治療を求めて彼のところに来た。しかし実際は、石鹸を塗ったり目薬を塗ったりしただけだった。このことから彼は良心の呵責を感じ、「今われわれの置かれている状況の中では、このようなインチキも許されると思う。われわれの手持ちの品はほんの僅かになってしまっていて、インディアンから必要な食料を得ることができないのだから」(五月五日付)と苦しい言い訳をしたのだった。
Ethical Dillenma(道徳的ジレンマ)は、株主が短期的に大きな収益をリクエストするようになった昨今において急速に注目され始めた要素です。収益を上げステークホルダーに応えたい一方で、コンプライアンスを遵守しなくてはならない。このような道徳的ジレンマは数多くの経営者が抱えているジレンマなのです。
ではこういった高まる外部の期待に、どのように対処するのが適切なのでしょうか。犯罪者になるとは言わないまでも、「一歩手前」や「グレーゾーン」に身を置くことが正しい選択なのでしょうか。前述のコヴィー博士は『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)において次のように述べました。
私たちは期待をコントロールできる。なにも期待のレベルを下げろというのではない。期待を「真北の法則」に当てはめるのである。(略)期待が「原則」に基づいているかどうか検証してみることである。フラストレーションを感じたらいつでも、問題の根っこに戻ればいい。
原則を無視すれば、しっぺ返しが後日やってくるだけです。これは個人のみならず組織においても同様であり、我々に向けられた期待は原則に基づいているのかどうか。この疑問こそが組織や個人を適切に成長させる、目指すべきスピードを示しているのではないでしょうか。
出典:『ルイス=クラーク探検隊-アメリカ西部開拓の原始的物語』(明石紀雄著、世界思想社)