古典に学ぶタイム・マネジメント 62回 ネルソン・マンデラに学ぶ

昨年他界したネルソン・マンデラ(1918-2013)は、南アフリカ共和国の政治家で、反アパルトヘイトの闘士として知られています。その活動が国家反逆罪と見なされ、50代半ばで終身刑の判決を受けますが、27年間にも及ぶ獄中生活を経て、1990年に釈放されました。翌1991年、アフリカ民族会議(ANC)の議長に就任。アパルトヘイト撤廃に尽力した実績が認められ、1993年にはノーベル平和賞を受賞しています。翌年、南アフリカ共和国の大統領に就任、民族和解・協調政策をとりながら、復興に向けた経済政策を推進しました。過酷な状況にあってなお自らの信念を貫き、全民族融和の象徴的存在として世界中からリスペクトを受けてきたマンデラの追悼式には、オバマ米大統領をはじめ、日本からも皇太子が参列するなど、死してなお、その影響力の大きさを示しました。その偉大なる足跡を簡単にたどってみましょう。

●流れを変える人

一九七二年、二人の男が家に押し入り、彼女(訳注:ネルソン・マンデラの妻)をベッドに押し倒し首を絞めようとした。彼女の叫び声で隣人がやってきたので襲撃者は逃走した。 数ヵ月後彼女のガレージのドアが壊され、車の窓ガラスが割られていた。一九七六年には、破壊者が電話線を切断し、家の窓ガラスを叩き割り、ドアを壊して、反政府ビラを庭にまき散らした。ネルソンは、これらのすべて、いやそれ以上をくぐり抜けなければならなかった。

アパルトヘイト政策を支持するグループにとって、マンデラの影響力は侮れないものでした。そのため、収監されている本人のみならず、家族に対しても、想像を絶する攻撃や嫌がらせがあったといわれています。上記は、家庭を独りで守っている妻が襲われたときのエピソードです。

度重なる卑劣な行為にも、彼が全く屈することがなかった理由、それこそがビジョンの力といえそうです。若くしてアパルトヘイト政策への反対運動に身を投じ、たびたび投獄させられてきたマンデラにとって、敵対勢力からの妨害活動は日常茶飯事でした。こうした経験は、彼の戦意を削ぐどころか、逆にアパルトヘイト撤廃への想いをより一層強くする役割を果たしたのです。

生前、マンデラと親交の深かった故スティーブン・R・コヴィー博士は、その著書『偉大なる選択 偉大な貢献は、日常にある小さな選択から始まった』(キングベアー出版)の中で、彼のような人物を「流れを変える人」と呼び、次のように描写しています。

「流れを変える人は自分の欲求を超越し、人間性の最も深く崇高な衝動に突き動かされる人である。暗く先の見えない時代にあっては、彼らは審判ではなく光であり、批評家ではなく模範である」

混迷を極める現代において、このような「流れを変える人」へのニーズは高まる一方です。日常の中の小さな選択によって自ら流れを変えていくことは可能である、コヴィー博士はそう指摘しています。

●世界中から誕生日を祝福された男

世界教会評議会は、マンデラを獄中に置き続けることは「南アフリカ政府の抑圧政策と、黒人民衆の正当な要求を受け入れない頑迷さ」を証拠だてるものである、と警告を発した。ボクシングの世界ヘビー級チャンピオン、マイク・タイソンは、タイトル戦の勝利の際に使ったボクシング・グローブをマンデラに贈った。『ニュー・ネイション』紙は、オランダから一七万通の手紙とバースデイカードが届いた、と報じた。

これは、マンデラ70歳の誕生日を世界中が祝ったことを示す描写のほんの一部です。獄中にありながら、いかに大きな影響を及ぼし続けていたかがよくわかります。この3年後、ついに彼は釈放され、政治の表舞台に立って手腕を振るい、アパルトヘイト政策を終焉へと導きました。獄中にあっても腐ることなく、マンデラは自らの意志の力で少しずつ少しずつ流れを変え、最終的には大きな流れすら変えてみせたのです。

コヴィー博士は、過去の引力を断ち切る秘訣について、「初動にこそ、強いエネルギーが必要である」と語っています。このことをわかりやすく示す事例として、ロケットが宇宙へ飛び立つ際に必要なエネルギーは、その後の何万キロにもわたる宇宙遊泳や地球への帰還時の数倍に相当する、という話を紹介しています。

行動に移すまではあれこれ悩んでなかなか進まなかった案件が、いざやってみたら思いのほかうまくいってしまったというケースは、意外にあるものです。

十分な検討や準備を行った上で、という但し書きはつきますが、「初動にこそ、強いエネルギーが必要」という考えをポジティブに運用できれば、自ら流れを変え、変化を起こすことは、そう難しいことではないのかもしれません。なぜなら、「最初が一番難しい」ということをあらかじめ理解していれば、これまでなら挫折してきたような入口の試練に遭っても、ここが頑張りどころと立ち向かう勇気が出るからです。

最初の関門を突破するために、何を為すべきか。まずは、自分にできる貢献にはどんなものがあるか、その棚卸しから始めてみてはいかがでしょう。これまで予想もできなかった新しい何かが生まれるきっかけになるかもしれません。

(参考:『ネルソン・マンデラ伝 こぶしは希望より高く』、ファティマ・ミーア著、明石書店)

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