古典に学ぶタイム・マネジメント|66回 高橋是清に学ぶ

高橋是清(1854-1936)は、明治維新から大正・昭和にかけて活躍した日本の政治家で、第20代内閣総理大臣を務めた人物です。特に最先端の金融理論を駆使した財政家としての手腕には定評があり、大蔵大臣を6回にわたり務めたことでも知られています。

家庭の事情で生まれて間もなく養子に出された高橋は、長じて留学する際にその費用を着服されたり、留学先では悪意に満ちた契約書にサインさせられて奴隷同然の生活を送らざるを得なくなったりと、数々の逆境に耐え抜き、成功を掴み取りました。祖国を先進国の一員に押し上げ、現代日本の枠組みを整えた男の腹の中心には、いったいどのような信念や原理原則があったのでしょうか。

●絶対に自己本位には行動しない

ただわずかに誇り得るものがあるとすれば、それはいかなる場合に処しても、絶対に自己本位には行動しなかったという一事である。子供の時から今まで、一貫して、どんなにつまらない仕事を当てがわれた時にも、その仕事を本位として決して自分に重きを置かなかった。だから、世間に対し、人に対し、あるいは仕事に対しても、未だかつて一度も不平を抱いたことがない。(略)
われわれが世に処して行くには、何かの職務につかなくてはならん。職務について、世に立つ以上は、その職務を本位とし、それに満足し、それに対して恥じざるように務めることが、人間処世の本領である。

上に引用した高橋の発言は実に1世紀も前のものですが、現代にもそっくりそのまま当てはまりそうです。

たとえば、企業の意思決定に携わる職に就きたいと考えたとしても、いきなりそのポストを得られるわけではなく、どれほど優秀な人であってもそれなりの下積みは必要でしょう。給与が低いと嘆いたところで、属する企業があげている収益が低ければ、大幅な賃上げなど望むべくもないのは当然です。

一つの欲求が満たされると、より高次の欲求が頭をかすめる。そういった根本的な欲求があるからこそ、人は成長し続けることができるのかもしれません。とはいえ、いたずらに夢を追うばかりでは、ゴールに近づくことすら難しいはずです。

このように現状や身の程をわきまえず、やたら要求ばかりが多い考え方を、高橋は「自己本位」であると一刀両断しました。そして、地に足をつけて考えることの大切さ、目の前の職務に誠実にコミットすることの重要性を説いています。

さまざまな逆境を乗り越えてきた彼の言葉には、簡単に受け流すことのできない重みが感じられるのではないでしょうか。

●自分の境遇を他人と比較して悲観しないこと

若い人達に向かって、戒めたいことがある。それは、
『決して自分のサラリーと他人のサラリーとを比較するようなことをするな』
ということだ。もし、自分より仕合せな境遇にあるものを見て、それを自分の境遇に比較すれば、不平のおこることは必定だ。(略)
不平をおこすくらいなら、そこに使われて、サラリーを貰うことをやめるがよろしい。サラリーマンを廃業して独立するがいい。独立してやれば、何事も自分の力量一杯であるから、不平もおこらぬだろう。けれども、独立が出来ないくらいならば不平は言わないことだ。

会社のエースとしてならしていたビジネス・パーソンが、意気揚々と独立したものの、在籍時の得意先から仕事を回してもらえず、あっという間に苦境に陥るといったケースは少なくないものです。自分がいかに「企業のブランド」で仕事をしていたのかを思い知らされる瞬間といえるでしょう。

故スティーブン・R・コヴィー博士による「7つの習慣」では、「関心の輪」と「影響の輪」という概念が紹介されています。

我々はさまざまなことに関心を持つことができますが(関心の輪)、自分が影響を及ぼすことができるのはその中のごく限られた一部にすぎません(影響の輪)。だからこそ、影響できないものに固執することはやめて、自身の力で変化させていくことのできる影響の輪に集中し、その輪の大きさを広げることが大切であると、コヴィー博士は述べています。

学生時代の同級生や得意先の担当者から話を聞けば、「自分とはずいぶん違うな」とうらやましく感じる事柄が多かれ少なかれあることでしょう。しかし、上で高橋も指摘しているように、他人と自分の状況を比べて不平を感じたところで、何もしなければ現状を変えることなどできません。

そもそも、現在の職種も職場も選んだのは自分なのですから、自身の選択に責任を持ち、不満を口にする前に、どのようにすればよりよい環境に改善できるのかを考えるべきなのです。

影響の輪にフォーカスする主体性を持つことは、激動の渦中にある現代のビジネス・パーソンにとって、特に必要となるマインドの一つといえるかもしれません。

(参考:『高橋是清 随想録』、高橋是清 口述、上塚司 聞き書き、本の森)

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