古典に学ぶタイム・マネジメント|84回 ヨハネス・ケプラー

ヨハネス・ケプラー(1571-1630)は、「ケプラーの法則」で知られるドイツの天文学者です。惑星の軌道が円ではなく楕円であることを証明したこの法則は、天文学史に名を残す大きな発見となりました。
天文学のみならず、数学、自然哲学など多彩な分野で才能を発揮した人物ですが、その人生は決して順風満帆ではなかったようです。さまざまな問題に悩まされながらも多くの功績を残したケプラーの信念の軌跡を追ってみることにしましょう。

●根本的な部分に疑問を抱く

ケプラーは、太陽中心の体系をもっとよく眺めはじめて、惑星がなぜほかならぬこういう距離のところに位置しているのかという根本的な理由をコペルニクスが示していないことに気づいた。ケプラーは考えはじめた。なぜほかならぬこの距離なのか。また、それを言うなら、なぜ惑星は六つあり、また六つしかないのか。あるいは、なぜ神は、ほかならぬこのような形に太陽系を築くことを選んだのか。

上記の引用は、ケプラーが代数学の教員をしていた頃のエピソードです。授業の準備を行う中で、それまで常識とされていた知識にふと疑問を抱いたことが、後の「ケプラーの法則」発見へとつながりました。
マーケティングの世界では、「業界の常識は顧客の非常識」「顧客のニーズは業界の非常識にある」とよくいわれます。
自分たちが常識と思い込んでいる事項が、必ずしも外の世界で通用するとは限らず、そうした「常識」を疑うことによってブレイクスルーがもたらされることも少なくないはずです。
我々はなぜ、「常識とはいえない常識」に縛られてしまうのでしょうか。そのせいで根本的な問題やニーズを見逃してしまうとしたら、あまりにももったいないことです。

「7つの習慣」を提唱したスティーブン・R・コヴィー博士は、自身の著書『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)において、次のように述べています。

「自分は物事をあるがままに見ている、自分は客観的な人間だ、と誰しも思うものである。しかし実際はそうではない。私たちは世界をあるがままに見ているのではなく、自分なりに見ているのである。条件づけられた自分の目を通して見ているのだ」

ケプラーのような大発見には至らずとも、今一度自身の周囲の「常識」を棚卸ししてみることで、新たな展開が見いだせるかもしれません。

●母が魔女裁判を受ける

妹の手紙が届いたのは一二月二九日のことだった。ケプラーは素早く決然と対応し、一六一六年一月二日レオンベルクの町議会にあてて、憤りに満ちた手紙を書いた。帝国数学官としての地位をめいっぱいふりかざして、母に対する扱い、執行吏の振る舞い、自分も「禁じられた技」にかかっているというとんでもないうわさに激しく抗議した。母がかかわる法的な記録の写しを送るよう要求した。

今では信じ難いことですが、当時は一般市民に対して、「魔女である」という言いがかりをつけて断罪するという、いわゆる「魔女裁判」が横行していました。
現実問題として、「そうではないこと」を証明するのはなかなか困難であり、しかも魔女容疑については元から実体のない話ですから、そんなことで死刑にされてしまったらたまったものではありません。
実母が魔女裁判にかけられるという想像をはるかに超える困難に遭遇したケプラーは、引用部にもあるように、妹から知らせを受け取ると即座に対応しました。多忙な研究活動の傍ら、自ら母の弁護を引き受け、見事、母の無実を証明してみせたのです。

現代においても、誤解や言いがかりによって争いごとに巻き込まれ、巨額の費用と膨大な時間を費やして降りかかった問題に対処せざるを得ないケースは頻繁に発生しています。予期せぬトラブルに遭ったとき、我々としてはどのように対応すればよいのでしょうか。

前述のコヴィー博士は、自著『第八の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)の中で、このような考え方を紹介しています。

「いつでも上空では何百という飛行機が飛んでいる。どの飛行機も重要だ。まして自分が乗っていればなおさら! だが、管制官は一度に全機に集中することはできない。1機ずつ安全に着陸させることが管制官の仕事だ」

トラブルが発生しないように日々予防を行うのはとても大切なこと。それは大前提として、いざトラブルが発生してしまったならば、ケプラーがそうしたように、速やかに一つひとつ善処するしか手立てはないということです。
ますます複雑化する世界においては、こうしたシンプルな発想もまた重要な教訓となるのではないでしょうか。

(参考:『オックスフォード 科学の肖像 ヨハネス・ケプラー 天文学の新たなる地平へ』、ジェームズ・R・ヴォールケル著、林大訳、大月書店)

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