古典に学ぶタイム・マネジメント 第37回 安川雄之助に学ぶ

日本最高峰の商社の1つとして知られている三井物産株式会社。安川雄之助(1870-1944)は同社を大正時代後期から昭和の初めにかけて率い、現在の地位にまで押し上げる礎を築いた人物として知られています。今回は彼の自伝より、いくつかのエピソードを紹介しましょう。

●将来優れた人物にならなければならない

当時の人は皆月給のことは文句をいわなかった。それは将来大いに伸びることを目標にし、進んでむずかしい仕事に当り、体験を経て少しでも早く大人物になりたいということを考えていた。だからお互いが一生懸命に励み合い、劣ることを嫌ったものである。(略)
仕事のことについては前にも述べたように、将来何とかして優れた人物にならねばならぬと決心して、寝食を忘れて熱心にやったものである。

「将来優れた人物になる」とは、経済的な成功だけではなく、コヴィー博士のいう「第一の偉大さ」、つまり人格的道徳的な成功や成長のこともおそらく含まれていたのでしょう。

「給与に対する不満」、すなわち経済的な問題は、この「第一の偉大さ」のあとにくる「第二の偉大さ」に含まれるものであり、成長の過程において、第二の偉大さを望むべきではない、と解釈することもできるかもしれません。

「第一の偉大さ」とは原則であり、成長、忍耐、努力といった自制に関することや、お互いの協力、切磋琢磨といった、人間関係における原則も含まれます。

また、「励み合い」というのは、当時の仲間たちがいい意味での競争関係、信頼関係を築く中で相乗効果を発揮していったということでしょう。

●長期的な視野を持つ

引合を出して見ると一向振り向きもしない。さらに買手がない。引合を出しても相手にしない仕末である。したがって陸上げして広場に積重ねてある輸入材も立ち腐れの憂目を見ようとしている。
「この材木は君達に全部くれてやる。そして使ってみろ、使った分には決して代金を寄越せとはいわぬ無償でやる。しかし用途になるものがあって他へ売って代金をとったものはその半分を持って来い」
さて暫らくすると、日本木材に対し注文がぼつぼつ来るではないか。これは不思議だ。(略)

上記は安川氏のビジネスにおける有名なエピソードの1つである。中国進出を果たし、材木販売を試みるも、当時、日本材木の品質の高さは中国においてはほとんど知られておらず、成功を収めるまでに相当の苦労があったそうです。こういった状況を、なんと無料で使ってもらうことで打破したというわけです。

「木を見ず、森を見る」という言葉がありますが、この言葉にはコヴィー博士が『7つの習慣 成功には原則があった!』において第三の習慣として紹介している「重要事項を優先する」という考え方と近いものがあります。このエピソードに置き換えるならば、いかにして目先の材木を売るかではなく、これから先どのように売っていくかを考えた結果、目先にある材木は無料で渡してしまえ、となったわけです。

こういったことは頭ではわかっていても、実践するのはとても難しく、相当の勇気が必要です。ゲーテは、次のように語っています。

「大事を小事の犠牲にしてはならない」

人生における時間は有限です。自分にとっての小事に執着せず、いかに大事を達成していくか。激動の時代には最も必要なことといっても過言ではないでしょう。

(参考:『三井物産筆頭常務 安川雄之助の生涯』、安川雄之助著、東洋経済新報社)

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