古典に学ぶタイム・マネジメント|67回 ニコラ・テスラに学ぶ

今回、紹介するのは、オーストリア帝国(現 クロアチア)の電気技師・発明家のニコラ・テスラ(1856-1943)です。磁束密度の単位「テスラ」にその名をとどめ、19世紀から20世紀に至る電気技術の発展に寄与し、現代に大きな影響を与える数多くの発明を残しました。雇い主だったエジソンが推す直流電流による電力事業に対抗する形で、自らが発明した交流電流による電力事業の推進を提唱したことで職を追われ、その後もエジソンとの間に確執を残したエピソードは有名です。芸術を愛し、8か国語を操る天才科学者である一方、異常な潔癖症と風変わりな言動で知られ、自分なりの原理原則を重視した人物であったようです。周囲に惑わされず自己を貫く彼の本懐とはどのようなものだったのでしょうか。

●脳に火がついた

パリに滞在中の一八八三年、私はフランスの著名な製造業者から狩りに招待され、出かけることにした。長いこと工場に籠りっきりだったので、新鮮な空気を吸うと不思議なほど爽快な気分になった。

その夜、街に戻る途中で、“脳に火がついた”とはっきり感じた。そしてまるで身体のなかに小さな太陽があって、私自身が発光しているかのようだった。苦しみ続ける私の脳を冷やすべく、頭に冷湿布を当てて一晩過ごした。炎の頻度も激しさも次第に低下し、三週間以上かけてようやく完全に鎮まった。(略)

このような光に絡む現象はいまだにときどき現れる。たとえば新たな可能性を広げる考えが 湧いてきたときなどにだ。

何か大きな閃きを得たとき、人はハッとします。テスラはそれを「脳に火がついた」と表現しました。さすが天才発明家、なんともユニークな発想です。

脳に火がついたと感じるほど衝撃的な体験をしても、それを何か意味あるものに変換できなければ、一過性の自己満足で終わってしまいます。せっかくの火を絶やさず大きく育てるには、どうすればいいのでしょうか。

故スティーブン・R・コヴィー博士が提唱した「7つの習慣」の7つ目の習慣「第7の習慣:刃を研ぐ」を紹介しましょう。

これは、自分自身に対する手入れを欠かさず、新しいものや仕事とは直接関係のないものを取り入れることで、仕事のパフォーマンスを向上させていこうという考え方です。

研究で工場に籠もりきりだったテスラは、誘われるままに狩りに出かけ、大自然の中に身を置くことで、自身を再新再生させることに成功しました。このときの充足した気持ちや爽快感が、脳に火がつくほどの大きな閃きにつながったことは想像に難くありません。

現代に目を向けると、ITの発達によって世界が狭くなり、生産性は向上の一途をたどり、昼も夜もなく対応に追われるビジネス・パーソンが後を絶ちません。

リクレーション(recreation)という言葉は、再新再生(re-creation)という言葉から来ているという説があります。私たちもまたテスラに倣って、リクレーションを意図的に取り入れて、身体も精神も休ませ、日々生まれ変わる習慣を身につける必要がありそうです。

●わずかな作用が大きな力になる

これまでの人生で起こったことを振り返ると、運命とは何と些細なことで変わってしまうのかとつくづく思う。(略)ある冬の日に仲間たちと連れだって、険しい山をやっとのことで登った。雪を丸めて山の上から投げ落とすと、周りの雪を巻き込みながら結構な距離を転がり落ちていくのがおもしろかったのだ。
思いがけず、ひとつの玉が途中で止まることなく転がりかたまり続けた。そしてその玉は徐々に膨れ上がって家一軒くらいの巨大な塊にまでなり、谷底めがけて落ちていった。その衝撃たるや、地面が揺れるほどだった。(略)
何週間か経って、そのときに雪が流れていった様子が目の前に現れた。小さな雪の玉がこんなにも大きくなるのかと思った。そのとき以来、わずかな作用でも大きな力になるということに興味を強く惹きつけられた。

些細な出来事が後の人生に大きな影響を与える、という経験はままあるものです。その時点では気づかないことがほとんどかもしれませんが、テスラの場合は、自分の興味を引いた些細な物理現象から、本質を学び取ったことになります。

ここで、質問です。何らかの作物を収穫しようと思ったら、あなたはどうするでしょう?

実際のところ、春に種を蒔くところから始める以外に方法がないことをご存じでしょうか。種を蒔いたら水をやり、夏の間は雑草を抜いたり害虫を取り除いたり、手入れをまめに行わなければなりません。そうした作業の連続の先に、ようやく収穫の秋がやってきます。そして冬になると、来季の収穫に備えた土壌づくりを丹念に行う必要があります。

コヴィー博士は、これを「農場の法則」と呼び、どのようなことにもプロセスがあること、それは自然界の原理そのものであり、どんな近道もないことを伝えています。

種を蒔くという行為は、確かに小さなことかもしれません。しかし、果実を得るためには不可避の第一歩なのです。

たとえば、あなたが外資系企業で働きたいと思うのであれば、入社試験をパスするために英単語を一つずつコツコツと暗記することが、最初の一歩となるのかもしれません。

わずかな作用が大きな力になる。これはテスラが身を置いた電気の世界に限ったことではありません。第一歩を踏み出すことの重要性を理解することから、すべては始まるといってよいのではないでしょうか。

(参考:『ニコラ・テスラ 秘密の告白』、ニコラ・テスラ著、宮本寿代訳、成甲書房)

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