古典に学ぶタイムマネジメント|103回 エンリコ・フェルミ

エンリコ・フェルミ(1901-1954)はイタリア出身の物理学者です。30代でノーベル物理学賞を受賞、統計力学、核物理学、量子力学など多様な分野で大きな功績を残しました。
統計学においてフェルミの名を冠した概念は数多く、コンサルティング・ファームの入社面接で多用される「フェルミ推定」もその一つです。また、「フェルミウム」という元素の名前も彼に由来しています。
若い時期から卓越した科学者として認められてきたフェルミですが、夫人がユダヤ人であったことで当時のファシスト政権から迫害を受け、ノーベル賞授賞式に出席した足で米国への移住を決行するなど、その人生は必ずしも順風満帆なものではありませんでした。
フェルミを動かしていた情熱の源泉、選択の拠り所となる信念とは、どのようなものだったのでしょうか。

●即座に切り替え、挑戦を続ける

一九二五年、ある小さな大学で教授の椅子がひとつ空いた。フェルミはそれに応募したが、年上の候補者に負けてしまった。がっかりはしたが、立ち止まることはなかった。その後まもなく、フェルミは生涯で最も重要な理論論文を書き上げ、それによって世界の著名な物理学者の仲間入りを果たした。いわゆるフェルミ=ディラック統計である。フェルミの名を冠する重要な概念は数多くあるが、これがその第一号である。

大学教授の座に就けば、研究に打ち込むための理想的な環境を得ることができます。それに失敗したのですから、フェルミががっかりするのも無理はありません。
ここで注目すべきは、失望するような目に遭っても即座に気持ちを切り替え、自らの目標に向けて前進し続けたフェルミの強靭さです。実際、この1年後には、20代半ばにしてローマ大学の理論物理学教授に就任しています。

「7つの習慣」提唱者の故・スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、自身のビジョンがいかに大切であるかを次のように述べています。

「最も重要なビジョン、それはおそらく自分自身に関するビジョンだろう。自分の運命、自分ならではの使命、人生で果たすべき役割に対する意識、つまり目的意識を持ち、自分の存在意義を自覚することである」

どのような組織のビジョンも、その起点となるのは個人の意識なのかもしれません。我々も所属する組織に対する愚痴を吐く前に、自身の思いを今一度見直してみる必要がありそうです。そして、自分の考えに確信が持てたならば、自ら積極的に発信していく勇気を持つべきではないでしょうか。

●自分自身を信じる

この論文を『ネイチャー』に送った。ところが、担当編集者は「頭がおかしいんじゃないか」と没にしてしまった(実際にはもっとていねいに、「物理学的な現実からかけ離れすぎた抽象的な考察が散見される」と言っている。「頭がおかしい」をオブラートに包むとこういう言い方になる)。フェルミはこのベータ崩壊の論文を取り戻し、別のところで改めて発表した。この理論は時の試練に耐え、今も生き続けている。フェルミは実際にはさらに重要な別の研究でノーベル賞を受賞することになるが、それがなければ、あるいはこの理論でノーベル賞を受賞していたかもしれない。

評価軸というものは評価者の価値観によって変わってくるものです。直属の上司に評価されずとも、上級管理職から大いに評価されるというケースもあれば、その逆のケースもあるでしょう。評価者もまた個人の価値観に基づいて思考しているに過ぎず、誰か一人の評価を過大に受け止める必要はありません。
ネガティブな反応に対しては「そういう評価もある」と冷静に受け止めて、フェルミがそうしたように次へと意識を切り替えるのが得策というものです。

とはいえ、『ネイチャー』誌のような権威のある科学誌に自身の研究を否定されたわけですから、フェルミの受けたダメージは決して小さくはなかったはずです。それでも「正しい研究を行っている」という自らのビジョンへの確信、そしてそれを成功させることへの強い使命感が、彼を衝き動かしていたのではないでしょうか。

コヴィー博士は、前出の自著『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』の続きで、このように述べています。

「どのようなビジョンを抱くにしろ、まずこう自問すべきだ。このビジョンは、私のボイス(内面の声)、エネルギー、自分ならではの才能を生かせるだろうか? このビジョンに『使命感』を持てるだろうか、わが身を捧げるだけの価値がある大義だろうか」

信念があったことでも周囲から否定されれば迷いが生じますし、その迷いが成果に悪影響を与えることもあるでしょう。しかし、それもまた自らの決意の下で選択した「道」であることを忘れてはいけません。
周囲に惑わされることなく自らの信念を貫き通すには、自身のビジョンと正面から向き合い、常に自問を続けることで、より確かなビジョンを構築していく以外、特別な方法というのはないのかもしれません。

(参考:『オックスフォード 科学の肖像 エンリコ・フェルミ 原子のエネルギーを解き放つ』、ダン・クーパー著、梨本治男訳、大月書店)

古典に学ぶタイムマネジメント

コヴィー博士の集中講義 原則中心タイム・マネジメント

グレート・キャリア 最高の仕事に出会い、 偉大な貢献をするために

「セルフ・リーダーシップ」で 時代を乗り切る!

ビジネス・パーソンのための ビジネス開発講座|『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』に学ぶ、ソリューション開発の原則

ブレークスルー・トーク

アンケート結果に見る 「タイム・マネジメント」

スティーブン・R・コヴィー コラム