古典に学ぶタイム・マネジメント 第46回 岩崎弥太郎に学ぶ

三菱財閥といえば、三井、住友と並ぶ「日本三大財閥」の1つであり、印象的な赤いスリーダイヤの紋章でおなじみです。今回、取り上げる岩崎弥太郎(1835-1885)は、この三菱財閥の創業者。明治の動乱期に多くの事業を立ち上げ、わずか一代で莫大な富を築きました。起業のパイオニアともいえる彼は、どのようなビジョンの持ち主だったのでしょうか。

●刀をソロバンに持ち替える

ある日、ハッピ姿で得意廻りに出ていた石川七左衛門が、うな垂れて帰ってきたことがある。訪ねた先で、留守を守っていた丁稚から、「オイその荷物、あっちへ片付けてくれ」と、あごで指示されたのだ。以前なら、「無礼者! 手打ちにしてくれるっ」と、刀に手をかけるところである。

そのとき、弥太郎は、「得意先の番頭や小僧に頭を下げると思うから腹も立つが、金に頭を下げると思えば我慢できるがじゃ」と言いながら奥に入ると、扇子を持ってきた。「この扇子を進呈するから、これから腹が立ったときはこれを見ろ」

社長がくれたのはただの扇子だったが、裏に一枚の小判が描かれていた。

時は明治時代。それまで刀を脇に差していた武士たちが、急に刀をソロバンに持ち替え、町人に頭を下げて商いを行うわけです。武士にとって、このパラダイムシフトを受け入れるのは並大抵のことではなかったでしょう。ご存じのように、江戸時代の階級制度は士農工商となっており、商人の身分は非常に低いものでした。上に紹介したような出来事は、町内の至るところで日常茶飯事的に発生していたことでしょう。

岩崎弥太郎がここで部下に言いたかったのは、明確なビジョンを描き、常に意識することで、どのような苦難にも立ち向かえるようになる、ということだったのかもしれません。つまり、小判はビジョンの象徴であり、それが描かれた扇子を見れば、自分が何をなすべきか、そのたびに再認識できるというわけです。

スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『7つの習慣 成功には原則があった!』において、自らの中に「変わらない中心」を強く意識することを提案しています。

「自分の中に変わらない中心があってこそ、人は変化に耐えられる」とはコヴィー博士の弁ですが、すべてが激動の渦の中にあるといっていい現代において、国や企業など、自身の所属する組織が「変わらない中心」を保ち続けているかといえば、なかなか難しい面があるでしょう。組織の文化に期待できないとすれば、まずは個人として「変わらない中心」を意識し、変化への耐性を自ら構築することです。そうすれば、周囲の環境はめまぐるしく変わっても、そうした状況に流されることなく、主体的な業務への取り組みが可能になるはずです。

●弥太郎栄進の出発点

土佐に戻された東洋は、高知城外に「少林塾」を開いた。そんな東洋の名声を聞きつけて、有意の若者たちが集まってきたが、東洋は自分の目に適った者でなければ、弟子を取らない。
少林塾のうわさは、鴨部村にいる弥太郎の耳にも当然伝わってきた。<なんとしてでも、吉田東洋先生から教えを受けなければ……>
そんな折、弥太郎と親しくしていた近藤長次郎が、弥太郎を後藤象二郎に引き合わせた。弥太郎が〝しめた〝と微笑んだのはいうまでもない。

当時は現代に比べ圧倒的に情報が少なく、必要な情報にアクセスする手段そのものが限られていました。大学もなければインターネットもない時代、優れた師を見つけることはとても困難だったはずです。もし見つけたとしても、その人から教えを請うことが叶うケースは、非常にまれであったといえるでしょう。

しかし、弥太郎は幸運でした。「わが師」と心に決めた吉田東洋の門下生、後藤象二郎と出会い、後藤に自分を売り込むことで、「見込みのある若者」として吉田東洋に自らを紹介してもらうことに成功したわけです。

このとき弥太郎は、どのような売り込み方をしたのでしょうか。

他人からの評価が何によって決まるのか、コヴィー博士は前出の『7つの習慣』の中で、次のように述べています。

「人間関係において最も大切な要素は、言葉でも行動でもない。自分がどういう人間であるかということだ」

つまり、重要なのはテクニックではなく、本人の内面から滲み出るものだというわけです。もちろん、話し方や外見、ふるまい方に気を配ることも大切でしょう。しかし、それら以上に、まずは内面、自分自身の中心に何を据えているかが大切である、というのがコヴィー博士の考えです。

あなたが弥太郎なら、どのように自分を売り込むでしょうか。

(参考:『岩崎弥太郎伝 土佐の悪太郎と明治維新』、太田尚樹著、角川学芸出版)

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