古典に学ぶタイム・マネジメント|第49回 大隈重信に学ぶ

大隈重信(1838-1922)は、日本初の政党内閣を組閣し、日本を代表する教育機関である早稲田大学を創設した人物です。明治維新における活躍はもとより、彼の残した業績は数え切れません。彼の中にあるどのような要素が、数多くの、しかも大きな成功をもたらしたのでしょうか。

●周囲を巻き込み味方にする

ついに大隈は浦上問題の急先鋒である英国公使パークスとの談判に臨んだ。(略)大隈と対峙したパークスは、開口一番、「大隈の如き身分の低き輩と談判はできぬ」と一喝、得意の先制攻撃をかけた。大隈は、「天皇の御名により政府を代表する者を拒むは、自らこれまでの抗議を撤回したものと見なす」とこれをかわした。(略)6時間に及ぶ白熱の論戦の末、とにもかくにも大隈は列国の鋒先を収めさせることに成功した。

この大殊勲により、大隈は一躍中央政界への切符を手にし、同時に、パークスという強い味方を得た。この後、昇進につぐ昇進をとげつつ、パークスの支援のもとに大隈は数々の改革を実現させていくのである。

成立して間もない明治政府では、キリスト教を邪教と呼び、信徒は死罪に処するという布告まで出していました。上の引用は、これに業を煮やした英国が、駐日英国公使パークスに交渉に当たらせた際のエピソードです。明治政府もまた、日本人とは全く異なるパラダイムを持つ西洋人への対応に相当苦慮しており、そこで当時、頭角を現しつつあった大隈重信を交渉人として送り込んだのです。

大隈に優れたネゴシエーターとしての資質があったことは間違いありません。しかし、それ以上に注目すべきは、パークスが大隈をいたく気に入ったという事実です。この後、大隈が成立させていくことになる施策の裏には、常にパークスの存在がありました。言語や文化、そして立場といった障壁がある中で、2人は強力な友情を育んでいきました。パークスが自分より10歳も年下の大隈をそれほどに認めた理由はどこにあったのでしょうか。

さまざまな要因が考えられますが、その1つとして、大隈の持つビジョンの大きさを挙げることができるのではないでしょうか。どんな手を使ってでも日本を強力な国にする、世界に認めさせてやる。その思いの強さにパークスは心を打たれたのかもしれません。

また、スティーブン・R・コヴィー博士は著書『第八の習慣 「効果」から「偉大」へ』において、壮大なビジョンを持つだけではなく、それを部下や従業員に翻訳して伝える作業もまたリーダー、そして経営者にとって必要なことではないか、と指摘しています。これこそが「ビジネスリーダーが直面する最大の試練の1つ」なのだと。

その意味で、早稲田大学を創立したことからもわかるように、大隈には人育ての優れた資質がありました。好悪の感情を抜きにして広く人と交わり、人の話をよく聞き、そして相手が理解する前に自らの結論を押し付けることは決してしなかったといいます。

●骨董趣味はなかったが・・・

その井上(編者注:井上馨を指す。熱心な骨董ファンであった)と大坂に行を共にした時、彼につきあいのある骨董店に入った。井上が欲しいものの値引き交渉を延々としているのにいや気をさした大隈は、井上の前にひろげられたものを「全部買う、2,000円だ」と無造作に2,000円を店の主人に渡し、荷車で品物を宿に持ち帰ってしまった。あわてた井上は、所望の品を大隈から2,000円で買うはめになった。

このときの大隈の行動については、不毛な時間の浪費に耐えきれなかったため、と説明されています。しかし、井上馨が2,000円(当時の貨幣価値では1,000万円以上)という大金で、その骨董品を買い取ってくれる保証などどこにもありません。このエピソードからは、大隈という人物の豪快さともに、「時間」というものに対する強い執着を見てとることができます。成し遂げるべき成果をあげるには時間を有効に使うべきである、という真理を当時すでに喝破していたのでしょう。

「7つの習慣」を実践するためのツールとしてよく知られているフランクリン・プランナーですが、最初のページには「人生を愛する者よ、時間を大切にしなければならない。なぜなら人生は時間でできているのだから」というベンジャミン・フランクリンの格言が記されており、これは米国や日本のみならず、すべての国で同一です。

社会情勢がどのように変化しようと、時間は常に一定であり、誰にとっても平等に与えられた条件といえるでしょう。どのように自分の時間を使うか。それを常に考え続けることの重要性は、いつの時代においても決して変わることはありません。

(参考: 『エピソード大隈重信125話』、エピソード大隈重信編集委員会編)

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