古典に学ぶタイム・マネジメント|73回 ジョーゼフ・ピュリツァー

ピュリツァー賞といえば、米国で最も権威のあるアワードの一つであり、特に活字媒体のジャーナリストにとっては憧れの賞とされています。
この賞を提唱したジョーゼフ・ピュリツァー(1847-1911)は、ハンガリー生まれの米国人であり、新聞記者として、さらには新聞社経営者として、大いなる手腕を発揮した人物です。当時の報道のあり方に疑問を持ち、人間にフォーカスした報道スタイルによって新聞界に変革をもたらしました。また、後進への指導にも力を入れ、ピュリツァー賞のみならず、コロンビア大学ジャーナリズム大学院の開設にも情熱を注ぐなど、今なおジャーナリズムの世界には彼のレガシーが生き続けています。

●4度目の正直

彼は17歳になる前に、独立を求めた旅に出発するのだが、この独立を求める心こそ、その後常に彼に強い影響を与えるものとなった。1864年の初めに、当時のビスマルクのシュレスヴィッヒ・ホルシュタインに対する陰険な政策にいきりたって、彼はオーストリア陸軍に志願した。(略)意外にも3つの理由 ― 年齢、弱い視力、弱よわしい体格 ― で拒否されてしまった。これにへこたれず、彼はパリに出かけていった。(略)ハンブルクでは、アメリカの南北戦争の募兵をする北軍側の出先機関が活躍していた。(略)これらの募兵機関は、歩くことのできる男であれば誰でもかまわず受けいれた。彼はやっとこさここで、自分を採用してくれる軍隊にめぐりあえた。

ピュリツァー少年は、オーストリア陸軍に始まり、パリの外人部隊、インド駐屯のイギリス軍と、ヨーロッパ各地で入隊を志願しますが、ことごとく失敗に終わっています。視力が弱く体格も貧弱だった17歳の少年は、募兵側からすればとても兵士向きとは思えなかったのでしょう。
それでも4度目の正直で、ようやく南北戦争の北軍兵として入隊に成功します。ピュリツァーには、戦争の目的も戦う場所にもこだわりはなく、ただ何としてでも軍人になろうとする強い意志だけが目立ちます。そうまでして若い彼を戦地に駆り立てたものとはいったい何だったのでしょうか。
『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)の著書である故スティーブン・R・コヴィー博士は、人のビジョンについて次のように言及しています。
「ビジョンは、人生のすべてを動かす原動力である。ビジョンを通して自分にしかできない貢献を自覚し、情熱を持つことができる」
そう考えると、当時のピュリツァーには、兵士として戦地に赴くことで得られる成果とそれらがもたらす影響、つまりビジョンが、はっきりと思い浮かんでいたのかもしれません。
移動や通信の手段がドッグイヤーのペースで発達する現代では、誰もが日々の忙しさに追われ、自身のビジョンを見失いそうになりがちです。しかしそのような環境においても、ブレることなく目標達成し続ける人こそが、後のピュリツァーのように大きな貢献を世にもたらすことができるのではないでしょうか。

●新たな成功者

ではニューヨーク市は、新聞が飽和状態だったのだろうか。彼はそうは考えなかった。既存の高級新聞はたしかに威厳があり、文学的で、教養のある人びとのために編集されてはいたが、改革に対する熱情に欠け、勤労大衆に読まれていなかった。(略)ピュリツァーが理想とした新聞は、ひじょうに自由主義的であるとともに改革精神に燃え、かつニュースにも富んでいるので、労働者階級を引きつけると同時に、一部のインテリ階級からも愛されるといった新聞だった。

レッドオーシャンとされる業界にあっても、優れたマーケターは常にブルーオーシャンを見つけるもの。ピュリツァーもそういう人間の一人であったようです。
新聞に対する理想を持ち続けた彼は、その信念を曲げずに記者としてがむしゃらに働き続け、後に大赤字の新聞社であった『ニューヨーク・ワールド』を買収し、同紙に大いなる発展をもたらします。新聞記者としての高い能力はもちろんのこと、信念の強さや卓越した先見性など、商売人としての才覚があればこそ、大きな成功を収めることができたのでしょう。
前出の故コヴィー博士は、21世紀の成功者について次のように言及しています。
「ダニエル・ピンクが主張するように、今日の経済を担おうとしているのは右脳派なのである。何かを発明したり、デザインしたり、聞き役にまわったり、大局的視野に立って考えたり、意味を構築したり、パターンを認識したりする人たち、ただ知識を丸暗記したり受け売りで発言したりするのではなく、知識を最大限に活かし、創造的に扱える人たちである」(『子どもたちに「7つの習慣」を』キングベアー出版)
100年以上も前に活躍したピュリツァーですが、彼の人物像はまさにコヴィー博士の指摘にピタリと当てはまっています。100年前も2015年も、知識の丸暗記だけにはとどまらない、ユニークなアウトプットなくしてブレークスルーは達成できません。その意味では、過去も現在も、そして未来も、成功者の原則は不変といえるでしょう。

(参考:『ピュリツァー アメリカ新聞界の巨人』、W・A・スウォンバーグ著、木下秀夫訳、早川書房)

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