古典に学ぶタイムマネジメント|108回 アレグザンダー・ハミルトン

米国初代大統領のジョージ・ワシントン。イギリスとの独立戦争において副官を務め、後のワシントン政権下では初代財務長官という重職を務めたのが、今回取り上げるアレグザンダー・ハミルトン(1755-1804)です。彼は軍人や政治家としてのキャリアだけでなく、米国最古の日刊紙ニューヨーク・ポスト紙やバンク・オブ・ニューヨークを創業するなど、企業家としての評価も非常に高いのが特徴です。多才な彼の土台となっていた考え方は、どのようなものだったのでしょうか。

●先見の明

独立革命の終わりには、1ドル相当の金や銀を買うのに、コンチネンタルダラーで167ドルも必要になっていた。この無価値な通貨は、すでに新しい紙幣に取って代わられていたが、諸邦も別の紙幣を発行しており、マンハッタンでも、ニュージャージーやペンシルヴェニアの紙幣が大量に出回っていた。商店主は、まさに数学の天才でなければ、流通しているさまざまな紙幣や通貨の絶えず変動する価値を計算することなどできなかった。

彼は上記の考えから通貨の規格統一を考え、実行に移します。この発想が当時は誰もが否定的だった銀行、米国最古の銀行であるバンク・オブ・ニューヨークの設立に繋がります。通貨の統一という考えに対し、どの程度の人民が賛意を示したのでしょうか。具体的なデータは見当たりませんが、自分の所有する貨幣の価値が下がる可能性があるのです、気を良くした資産家は少なかったのではないでしょうか。

しかし彼はこれを実行します。何が彼を突き動かしたのでしょう。さまざまな考えがあるでしょうが、ひとつには、彼がこの事態を看過すれば問題が後世に先送られるだけであり、彼の時代で負のスパイラルに終止符を打つ必要があると考えたと思われます。

「7つの習慣」の提唱者、故スティーブン・R・コヴィー博士は著書『7つの習慣 原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版)において次のように述べています。

過去の引力を断ち切るには、強い目的意識とアイデンティティーの明確化が必要となってくる。自分を知り何をやり遂げたいかをハッキリさせる、これが鍵なのだ。

さらに『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)では、次のように述べています。

あなたの家族に何世代にもわたって受け継がれてきた悪い流れを、あなたの代で止めることができるのだ。あなたは流れを変える人となり、過去と未来をつなぐ人となる。あなた自身が変わり、流れを変えれば、その後に続く何世代もの人々の人生に大きな影響を与えられるのである。

結果的に市民へもたらされるであろう幸福を想定し、後ろ指を差されようが施策を実行する。彼の政治家としての生き様が感じられるように思われます。

●変わらない中心を持つ

建国の父たちにしても、ハミルトンほど一貫して奴隷制度に反対し、奴隷制度廃止のために努力した者はほとんどいなかった。この事実は、彼が裕福な特権階級のみに配慮していたという固定観念と矛盾する。確かに、ジョン・アダムズ(編注:アメリカ合衆国2代目大統領。ハミルトンの政敵として知られた)は奴隷を所有したことがなく、奴隷制度を「人格をむしばむ忌まわしい悪疫」と非難したが、自らの信念を必ず実行に移したわけではなかった。

奴隷制度の是非を巡っては米国設立直後から南北間にて議論がたびたび沸き起こり、最終的には南北戦争という形で内紛にまで発展してしまいました。奴隷制度に反対する政治家でさえ、自宅の農園では奴隷を雇用していたりと、経済的発展のために依存せざるを得なくなっているアメリカ国民がそこにはいたようです。

前出のコヴィー博士は、「変わらない中心を持つ」ことの大切さを述べています。以下は著書『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)からの引用です。

自分の中に変わらない中心があってこそ、人は変化に耐えられる。変化に対応する能力を高める鍵は、自分は誰なのか、何を目指しているのか、何を大切にしているのかを明確に意識することである。

言うは易しといえども、「変わらない中心」を持つことは非常に困難です。この激動の時代において、昨日まで正しかった価値の正当性が覆ることは珍しいことでありません。だからこそ、社会通念の変化にも耐えうる、自分にとっての「真北」はどこなのか。モチベーションの源泉は何のか。常に考えを張り巡らせることは非常に重要なことではないでしょうか。

『アレグザンダー・ハミルトン伝(上)(下)』(ロン・チャーナウ著、井上 廣美訳、日経BP社)

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