古典に学ぶタイムマネジメント|102回 ハインリヒ・ヘルツ

ハインリヒ・ヘルツ(1857-1894)は、電磁波の存在を証明し、後世に名を残したドイツの物理学者です。難病を患い、36歳という若さでこの世を去りましたが、その功績は偉大で、周波数の単位を示す「ヘルツ(Hz)」は、彼の死後30年余りを経てその名が採用されたものです。挑戦と失敗を繰り返し、多大な成果を上げながら、あっという間に人生を駆け抜けたヘルツ。彼が常に意識していた原則とは、どのようなものだったのでしょうか。

右脳を鍛えることの重要性

「叔父さんから聞いているだろうが、地上建築と鉄道建設の二つの部門があるが、君はどちらを選びたいかね?」と尋ねられ、「あなたのおっしゃるようにしますが、基礎的なことはどちらでも学び取れると思います」と答えたところ、「それは全く間違っています。むしろ数学に素質があるようなので、技術部門に進もうとしている人は建築学のより芸術的な面に精通しておく方がよいでしょう」

上の引用は、フランクフルトの建築事務所で働くことになったヘルツが、面接に訪れた際のエピソードです。建築学も学んでいたとはいえ自身の専門領域とはいえず、本人はこの就職を勉学の延長線と捉えていたフシがあります。
しかし面接官はヘルツの資質を見抜き、理論よりも感性を鍛えるよう進言しました。この言葉が彼に与えた影響は想像に難くありません。後にさまざまな科学的革新を起こすことになるヘルツにとって、早い時期にこうした視点を持てたことは幸運だったといえるでしょう。

現代社会では、いわゆる左脳的な管理を得意とし、右脳的な発想や遊び心的な視点の採用をよしとしない指導者が少なくありません。せっかく企業内にフレックス制度やテレワーク制度などが用意されていても、それらの利用申請はなかなか認可されず、「自由なワーキング環境」という謳い文句は企業イメージの対外的なアピールでしかない、というケースも残念ながら非常に多く散見されます。

「7つの習慣」提唱者の故・スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)の中で、リーダーシップにおいては右脳的アプローチが非常に重要であると述べています。

「リーダーがすることは何だろう。それは、ジャングルの中で一番高い木に登り、全体を見渡して『このジャングルは違うぞ!』と叫ぶことである。
だが、仕事に追われ効率を追求する生産者やマネージャーは、その叫び声を聞いても、『うるさいな!仕事は順調に進んでいるんだから』としか答えないだろう」

ヘルツの場合、本人の志向とは異なる職を得たことで、結果的に右脳を鍛えることになりましたが、現代人にとっても、そんな「荒療治」が意外と有効なのかもしれません。

時には右へ、時には左へ

研究はさらに前進しておりますが、残念ながらゴールに向かって真っすぐではなく、時には右へ、時には左へとそれます。実際、一週間前に主要な点は完成したと思いましたのに、今は振り出しに戻された状態です。一つの難関を乗り越えたら、もっと大きな難関がすぐに立ち塞がり、研究には忍耐が必要です。

これは、ヘルツがベルリンで気象学の研究を行っていた頃、母親に宛てた手紙です。思うように研究が進んでいない旨が記されています。彼のような偉大な学者でさえも、時に苦闘し、それでも耐え忍び、コツコツと小さな成果を積み重ねることで成功につなげていった状況が窺われます。

ヘルツとは逆に、一度の成功を過信することほど危険なことはありません。過去の成功経験に囚われることで変革の機会を失い、破滅に至った「成功者」が古今東西どれほどいたでしょうか。
以前の成功を自身の中で否定し、常に新たな成功を求めて挑戦に乗り出すことはなかなか勇気がいるものですが、そうしたチャレンジ精神なくして「さらなる成功」を手に入れ続けることは不可能です。

前出のコヴィー博士は、著書『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、次のように述べています。

「試練にぶつかり、立ち向かえば、それは『成功』といえるのだ。だが新たな試練が持ち上がったとき、かつて成功した方法はもはや通用しない。『失敗』するのである」

つまり、「成功は一つの失敗」でもあるわけです。挑戦とはリスクの高いものに挑むことですから、本来、失敗は付き物のはずですが、それを周囲が理解してくれるかといえば、決してそうではありません。ヘルツも苦労したように、この状況は今も昔も変わることはないでしょう。
誰もができるだけ早く成功に到達したいと願いますが、「成功ほどの失敗はない」ということを肝に銘じつつ、日々の物事を見つめ、自身の仕事に取り組みたいものです。そうした視点を持っている人のほうが、目先の成果や功を焦る人よりも、本質的なブレークスルーに近づいていけるのではないでしょうか。

(参考:『天才物理学者 ヘルツの生涯』、山崎岐男著、考古堂書店)

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