古典に学ぶタイム・マネジメント|82回 リー・クアンユー

リー・クアンユー(1923-2015)はシンガポールの初代首相となった政治家です。リーが生まれた当時のシンガポールは英国の植民地でしたが、首相として独立を勝ち取った後、祖国を世界でも有数の高い生産性を誇る近代国家へと育て上げました。中国語ではなく英語を話す家庭に生まれたというリーの選択と実行の軌跡をたどってみることにしましょう。

●父と祖父

母も父が無学だったことを後々まで悔やんでいた。専門知識がなかったので、一九二九年の世界大恐慌で両家とも家運が傾いたとき、父の仕事はシェル石油会社の倉庫管理人にすぎなかった。(略)父と祖父を比べれば、私がどちらを尊敬していたかはいうまでもない。

太平洋戦争の影響で大学生活の中断を余儀なくされたリーは、戦後、英国ケンブリッジ大学に留学して法律学を学び、首席で卒業しました。この後、弁護士を経て政治の世界に足を踏み入れることになりますが、彼が英国留学を選択した背景には、純粋な知的好奇心のほかにも、上記にあるような一種の学歴コンプレックスがあったのかもしれません。
教育への投資は最も合理的で効果的な投資の方法であり、どんな時代にも通用する原則であるということを、彼自身、よく理解していたのではないでしょうか。

原則を重視することの大切さについて、「7つの習慣」の提唱者であるスティーブン・R・コヴィー博士は著書『7つの習慣 原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版)において、以下のように述べています。

「自分自身を尊重しながらも、高い目的と原則に自分を従わせることは、崇高な人間性におけるふたつの矛盾した側面であり、有効なリーダーシップの基礎を成すものである」

つまり、原則を尊重することこそがリーダーシップへの近道であるということになるでしょうか。
リーもまた、英国留学を通して自らの知性や人格を磨き、母国に戻って素晴らしいリーダーシップを発揮し、偉大な成果を上げました。彼自身のリーダーシップを築いていくうえで、「高い目的意識」とともに、「原則」の重要性に対する深い理解があったことは間違いなさそうです。

●クリーン&グリーン

独立後、私はシンガポールを第三世界で突出した国にする方法を考え抜いたすえ、「クリーン&グリーン」、つまり清潔で緑の多い国にするという答えにいきついた。シンガポールを東南アジアのオアシスとするのだ。世界一流の水準であれば、企業も観光客もこの国をビジネスや旅行の拠点にする。物質的な水準を上げるのは容易だったが、人々の粗野な振る舞いを改善するのはそう簡単ではなかった。

シンガポールを訪れたことのある方はよくご存じだと思いますが、至る場所に木々が生い茂り、道端にごみ一つ落ちていない清潔な国です。世界中から企業や観光客を誘致できる国づくりを目指して、リーが提唱したのが「クリーン&グリーン」という環境美化運動でした。

しかし、上記引用にもあるように、国民に根づいていた生活習慣を根底から引き剥がし、新たな価値観や習慣を浸透させていくのは、決して容易な取り組みではなかったようです。それでもリーは粘り強くこの運動を主導し、現在の「クリーン&グリーン」で知られるシンガポールを勝ち取ったのです。それは、まさに常識を打ち破るチャレンジそのものでした。

おそらく、リー自身にとっても、従来の習慣に身を委ねているほうが、気楽で居心地がよかったかもしれません。しかし彼には「ここで流れを変えれば、シンガポールの将来が必ず変わる」という明確なビジョンがあったのではないでしょうか。
そういった人々を、コヴィー博士は著書『偉大なる選択 偉大な貢献は、日常にある小さな選択から始まった』(キングベアー出版)において、「流れを変える人」と呼んでいます。

「流れを変える人とは、家庭や職場、地域社会において、世代から世代へと受け継がれ、あるいはどんな状況でも根強く残ってきた悪しき伝統や有害な慣行を断ち切る人である。流れを変える人は自分の欲求を超越し、人間性の最も深く崇高な衝動に突き動かされる人である」

淡路島くらいの面積しかなく、主だった天然資源や自国産業もないシンガポールですが、今や貿易や金融の中心地として世界トップクラスの先進国となっています。東南アジアの小国をこのような豊かな国に育て上げたリー・クアンユーの手腕たるや、恐るべし。決してブレることのない信念と原則があればこそ、彼は祖国の流れを大きく変えることができたのではないでしょうか。

(参考:『リー・クアンユー回顧録<上・下>』、リー・クアンユー著、小牧利寿訳、日本経済新聞社)

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