第23回 本田宗一郎に学ぶ

約20年前に死去した本田宗一郎(1906-1991)ですが、今日でも本田技研工業株式会社を一代で築いた『伝説のビジネス・パーソン』として、至るところで存在感を発揮しています。夢を追いかけ実現し続けた彼は、技術者としてのイメージが先行しがちですが、社のモットーとした「3つの喜び:作って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」など、独自の思想を持つ経営者でもありました。

今回は「7つの習慣」に関連した経営観をいくつか、彼の自伝より紹介しましょう。

■自分と同じなら二人は必要ない

私は東海精機時代(編集者注:本田宗一郎が28歳のときに創業した工場)はもちろん、それ以前から自分と同じ性格の人間とは組まないという信念を持っていた。自分と同じなら二人は必要ない。自分一人でじゅうぶんだ。目的は一つでも、そこへたどりつく方法としては人それぞれの個性、異なった持ち味をいかしていくのがいい、だから自分と同じ性格の者とでなくいろいろな性格、能力の人といっしょにやっていきたいという考えを一貫して持っている。

(略)

つねづね私の感じていることは、性格の違った人とお付き合いできないようでは社会人として値打ちが少ない人間ではないかということである。(略)本田技研の次期社長は、この会社をりっぱに維持、発展させうる能力のある者なら、あえて日本人に限らず外人でもかまわないとさえ思っている。

スティーブン・R・コヴィー博士が提唱する「7つの習慣」において、第六の習慣は「相乗効果を発揮する」です。相乗効果を発揮するためには「多様性の尊重」から始まるとコヴィー博士は語っています。お互いの違いをうまく受け入れ、取り入れることで一人ではできなかったことが可能となり、相乗効果を生むというわけです。

そして、「性格の違った人とお付き合いできないようでは社会人として値打ちが少ない人間」というのも、強烈な一言です。つまり、違いを認め、受容できる人間でなければ値打ちがないということです。また、「外人でもかまわない」とさえ断言しています。これは1960年頃に書かれた文章だそうです。今より50年前ということになります。今日でも経営トップに外国籍のビジネス・パーソンが迎えられると、新聞に掲載されるくらいのインパクトのある話ですが、本田宗一郎はなんと50年も前からこの考えを受け入れる準備ができていたということになります。

■惚れて通えば千里も一里

藍綬褒章の授賞式後、高輪の光輪閣で高松宮が晩さん会を開いてくれた。参加した受賞者は老人ばかり、四十六歳の私が最年少者だった。そのとき高松宮は私に向かって、

「本田、発明・くふうというのはずいぶん骨のおれることだろうな」とねぎらわれた。だが私はこうお答えした。

「殿下はそうお思いでしょうが、私にとっては好きでやっているのですから全部苦労とは思いません。世に言う『惚れて通えば千里も一里』というやつで人さまが見れば苦しいようでも本人は楽しんでいるのですから、表彰されようとは夢にも思っていませんでした」

いかにも本田宗一郎らしい発言といえるのではないでしょうか。「天職」とはまさにこういったことをいうのでしょう。きっと体中の血が沸々と沸き上がり、疲れを微塵も感じない、そういった状態であったに違いありません。

コヴィー博士は著書『第8の習慣 効果から偉大へ』(キングベアー出版)の中で「ボイス」には「才能」「情熱」「ニーズ」「良心」の4つの側面があると紹介しています。

「ボイス」とは「内面の声」とも訳されるもので、「個としてのかけがえのない意義」であるとされています。つまりあなたの存在意義ともいえるでしょう。

その「ボイス」には、「才能:あなたの専門性、スキルなど」「情熱:あなたがしたいと感じること」「ニーズ:周囲があなたに求めること」「良心:心が導くこと」という4つの側面があるというわけです。

本田宗一郎にとってのボイスは「バイクや自動車を開発し、世に広めること」でした。彼にはそれをするだけの才能があり、情熱があり、周囲のニーズもあり、そして心からそれが自分の為すべきことであるという確信があったのでしょう。

あなたの現在の仕事について、今一度考えてみましょう。そこにはあなたの才能、情熱、周囲のニーズ、良心がありますか。興味のある方は、『第8の習慣』をご一読ください。

(参考:『夢を力に』、本田宗一郎著、日経ビジネス文庫)

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