今月は、子ども向けの人生訓話として世界中になじみのある『イソップ寓話集』からの出典です。有名な話としては『ウサギとカメ』『アリとキリギリス』などが挙げられます。
この作品が初めて日本向けに翻訳されたのは1600年前後のことであり、わが国における西洋文学史の中でも古い歴史を持っています。
あまり知られていないことですが、作者であるイソップが、本当に実在したのかはハッキリしていません。というのも、イソップの実在を証明する資料も否定する資料も存在しないのです。
どちらが先なのかはわかりませんが、日本の民話や他国の多作品と似たものが多いのも特徴です。たとえば日本の民話で「金の斧」として知られている話は、「木樵とヘルメス」として紹介されています(内容はほとんど同じです)。こういった理由からも現代の日本人とも馴染み深い存在といえるでしょう。
長きにわたって語り継がれているだけあり、人生のさまざまな状況が想定され、それに対する助言が詰まっています。以下、タイム・マネジメントや仕事観に関連するものをピックアップしてみましょう。
計画の大切さ、無計画の恐ろしさ:井戸の中の狐と山羊
狐が井戸にはまり、上る手立てがなくて、止むをえずじっとしていた。そこへ喉の渇いた山羊がやって来て、狐を見つけると、そこの水は旨いのか、と尋ねた。狐は水を褒めちぎり、甘露! 甘露! と言うばかりか、山羊にも下りて来るよう勧めた。
山羊は、その時はただ飲みたい一心で、後先のことも考えず跳び下りて来たが、喉の渇きが収まるや、狐と共に上り方を考えはじめた。すると狐は、二人が助かるための妙案を思いついた、として言うには、
「もし君がその前足と角とを壁にもたせかけてくれたら、僕が君の背中を駆け上がって、君を引っぱり上げてあげよう」
山羊が狐のこの第二の勧めにも喜んで従ったところ、狐は山羊の足から背中へ跳び上がり、背中から角へとよじ上って、井戸の天辺まで上って来ると、そのまま「さようなら」をしようとした。約束が違う、と山羊が文句を言うと、狐は振り返ってこう言った。
「そこの山羊君、君にもしも顎の鬚ほども思慮があったなら、上り方を考えるまでは下りて行かなかったろうに」
このように自分の行動がもたらすものをしっかりと念頭に置いて行動せず、目の前に発生した誘惑や刺激に飛びついてしまうと、長期的な結果やその行為の影響範囲が、自分の求めていたのと全く違う結果となってしまうことになります。これをスティーブン・R・コヴィー博士は「ハシゴのかけ違え」と称しました。昇ってから違うところにハシゴをかけていたことに気がつくのです。どうやらこの手の過ちは、いつの時代にもあったようです。
強みを生かすこと:猟師と狼
狼が羊の群に襲いかかり、手当たり次第に引き裂いているのを猟師が見つけ、巧みにこれを追い詰めると、犬たちをけしかけながらこう叫んだ。
「恐ろしい狼さん、犬たちにはまったく歯が立たぬとは、さっきまでの力はどこへ行ったのかね」
羊の相手は抜群に得意なのに、犬を相手にすると全く力を出すことができなくなってしまった狼、というストーリーです。
さまざまな見方、考え方があるとは思いますが、1つには、「犬に対しては歯が立たない」というパラダイムが存在していて、力を持っているのにもかかわらず立ち向かおうとしない狼に対する皮肉があると思います。
私たちのビジネス社会においても、会社の名前や役職などで判断し、初めから無理だと決め付けてしまうことが往々にしてあります。全く力を持っていないのならともかく、ある場面においては素晴らしい力を発揮するにもかかわらず…。
「7つの習慣:第六の習慣」は「相乗効果を発揮する」です。人は誰しも抜群に得意なことがあるはずです。先入観を捨て、可能性を追求すれば、チームとして補い合い、最高の結果を創り上げることができるかもしれません。
出典:『イソップ寓話集』(中務哲郎訳、岩波文庫)