ニコラウス・コペルニクス(1473-1543)はポーランド出身の天文学者です。当時の主流であった天動説に疑問を抱き、地動説を唱えた功績については皆さんもよくご存じでしょう。
優秀な彼は、天文学者のみならず、聖職者、医師、政治家としても活躍しました。数多くの役割をバランスよく並行させながら、自身の研究を深め、人類にとって大きな貢献を果たしたことは賞賛に値するでしょう。
●名声や給与より時間が欲しい
このころコペルニクスは重大な決定を下した。そして最後には、教会の権力構造のなかで出世していかせようというおじの計画にしたがわないことを選ぶ。一五一〇年のうちにニコラウスはヴァッツェンローデ司教のもとでの奉仕をやめ、フロンボルクに移って聖堂参事会の律修司祭としての職務に就いた。そうすれば、聖堂の仕事に携わっていないときに、天文学の研究をおこなうひまがもっとできるかもしれない。
これはコペルニクスが37歳の頃、それまで常識とされていた天動説ではなく、地動説が正しいという考えに彼が至った時期のエピソードです。
当時は人々の生活や価値観において占星術が非常に重要な位置を占めていました。そこから派生した産業やビジネスも多く、コペルニクスとしてはそれらを根本から覆すことになる仮説を公表するつもりはなかったようです。
若くして両親を亡くしたコペルニクスは、後見人であるおじからカトリックの司教になることを望まれていました。実際、優秀な彼は聖職者としても高い評価を得ていましたが、おじの期待に背いてまで貫きたかったもの、それが自らの研究だったのです。そのために彼が何より欲した要素の一つが「時間」でした。
『TQ 心の安らぎを発見する時間管理の探究』(キングベアー出版)の著者であり、時間管理の第一人者として知られるハイラム・スミスは、第四世代の時間管理実践ツールとしてフランクリン・プランナーを開発しました。フランクリン・プランナーの最初のページには、米国建国の父であるベンジャミン・フランクリンの以下の言葉が記されています。
「人生を愛する者よ。時間を浪費してはならない。人生は、時間でできているのだから」
時間は誰にとっても平等であり、資本主義原理が世界中でまかり通る現代でも、金銭で購入することはできません。効果的な時間管理について今一度理解を含めることは、生活の質を高めるうえでも重要なドライバーとなるでしょう。
●より大きな「イエス」を選ぶ
そのあいだにコペルニクスは、シェーンベルク枢機卿からの一五三六年の手紙を教皇パウロ三世への献呈状とともにニュルンベルクに送った―どちらも、序文として印刷しようというのだった。教皇への手紙にはこう書いてある。「私の論考を世に出すべきかどうか長らく迷っておりました」。それは、地球が動くという自分の急進的な考えがどのように受け止められるか定かでなかったからだというのだった。だがそれでいて、自分の仕事は「いまや教皇聖下が統治する教会共同体」の利益になるという自信をコペルニクスは表明している。
前述したように、コペルニクス自身は地動説を世間に周知するつもりはなく、その存在は学者仲間に知られるのみでした。しかし次第に多くの支持者を生むようになり、周囲からの強い勧めを受けた彼はついに出版を決意します。その動機も、個人の名誉欲からではなく、より多くの人たちにとって有用であると判断したためでした。
このとき、すでにコペルニクスは老齢に差し掛かっていました。自身の研究の集大成として推敲を重ねたこの本は、彼の死の直後に刊行され、広く知られることとなったのです。
「7つの習慣」の提唱者である故・スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)の中で、時間管理について以下のように述べています。
「自分にとって一番重要なこと、もっとも大切にするべきことを決めたら、それ以外のことには勇気を持って、明るくにこやかに、弁解がましくなく『ノー』と言えなければならない。ためらわずに『ノー』と言うためには、それよりも強い『イエス』、もっと大事なことが、あなたの内面で燃えていなくてはならない。多くの場合、『最良』の敵は『良い』である。」
コペルニクスの「イエス」が後世に大きな影響を及ぼしたように、人生において、より大きな強い「イエス」を選ぶべき場面は数多く存在します。そう考えると、コヴィー博士のこの考え方は、時間管理のみならず、さまざまなことに応用できるのではないでしょうか。
政治資金の流用疑惑など、リーダーの資質を問われる事件が頻発する今、我々一人ひとりが大きな強い「イエス」を選択することで、少しでもいい世の中へとベースラインを上げていきたいものです。
『オックスフォード 科学の肖像 コペルニクス 地球を動かし天空の美しい秩序へ』 O・ギンガリッチ/J・マクラクラン著、林大訳、大月書店)