古典に学ぶタイム・マネジメント  第7回 福沢諭吉に学ぶ

今月紹介する作品は近代日本最大のベストセラーといっても過言ではありません、福沢諭吉(1835-1901)による『学問のすゝめ』です。

福沢諭吉は紙幣の肖像画となり、現代の日本で最も有名な歴史上の人物の1人といえるでしょう。彼は当時の日本が置かれた世界的な状況をしっかりと見つめ、日本人がどのようにあるべきか、どうするべきかを考え、慶應義塾を創立するなどの行動を起こしました。これは明治維新という激流の中で、自分の進むべき道をコンパスでしっかり指し示すという『自己リーダーシップの発揮』に他なりません。

そんな彼が随所でタイム・マネジメントの大切さを説いています。いくつか紹介しましょう。

なお、このコーナーでは『現代語訳 学問のすすめ』(齋藤孝訳、ちくま新書)を参考にしています。

まずは計画の困難さについて、福沢諭吉のコメントを見てみましょう。

【多くの人は事の難易度と時間のかかり方を計算しない】

田舎の書生で、故郷を出るとき「苦しい思いをしてでも3年の内には学問を修めよう」と思っていた者が、その誓いを守れるだろうか。(中略)「おれに大金があったら、明日にでも日本全国に漏れなく学校をつくって、どんな家の人間でも学問させてやるのになあ」という貧乏学生を、今日、いい縁があったということで三井や鴻池といった大財閥の養子にすれば、果たしていった通りのことをやってくれるだろうか。

この類の夢想は枚挙に暇がない。すべて、物事の難易度と時間の長短を比較できていない結果だ。時間の計算は甘すぎるし、物事を簡単に見すぎている。

いかがでしょう。公約を並び立て、実際には行動に移さない様を「夢想」と称しています。明治時代初期も平成の現代も、こうした傾向は変わらないことがわかります。

福沢諭吉はこういった「夢想」の原因を「物事の難易度と時間の長短を比較できていない結果」であると指摘しています。コヴィー博士は『7つの習慣 成功には原則があった!』の「第三の習慣 重要事項を優先する」で、時間管理において大切なことを「スケジュールに優先順位をつけることではなく、優先課題をスケジュールに入れること」と述べています。

最も重要なことを優先し、周囲の環境に対し自分の意志を貫くことは簡単ではなく、難易度が高いものです。重要度に合わせて、リスクや障害の大きさを考慮し、優先課題を遂行するための時間をきちんと確保すること、そして重要ではないことにノーといい、重要なことに実行を移すことが大切なのではないでしょうか。

【議論と実行とは異なる】

そもそも議論というのは、心に思うことを言葉として発したもの、あるいは、書き記したものである。(中略)したがって、議論は外界の事物に関係しないもの、といってもいいだろう。つまるところ、内側に存在するものであって、自由な、制限のないものである。

一方、実行というのは、心に思ったことを外に表して、外界の事物に接して処理することである。したがって実行には必ず制限がある。(中略)

議論と実行とは、少しも齟齬しないよう、間違いなくバランスをとらなければいけないのだ。

昨今企業において、成果が出ない理由の1つに、「戦略あって実行なし」といった主旨のことがいわれます。アイデアや計画は作成することができても、実際に実行に移すことができないということです。また、戦略がないままに実行だけしていても的が絞れず、その場その場の対応で終わることになってしまいます。

福沢諭吉も19世紀の段階で、実行に移すことの難しさを語っています。口にするのは簡単でも、問題はそれを実行に移せるかであって、制限のない机上の戦略策定と、さまざまな障害や制限のある現実の中での実行をバランスよく行わなければならないと説いています。

かつてコヴィー博士は、「7つの習慣」はむしろ東洋の考え方に近いと語ったことがあります。この歴史的な名著である『学問のすゝめ』で論じられている内容からも、納得できる話ではないでしょうか。

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