古典に学ぶタイム・マネジメント|88回 メンデル

今回フォーカスするグレゴール・ヨハン・メンデル(1822-1884)は、オーストリアの植物学者、遺伝学者です。有名な「メンデルの法則」で遺伝学の祖ともいわれる人物ですが、聖職者の立場で学術研究を続け、えんどう豆を使った実験によって、当時はマイナーだった遺伝学の分野を見事に切り拓きました。勤勉な聖職者が自然科学の世界に偉大な功績を残すに至った道のりを見てみましょう。

●逆境に負けないビジョンを持つ

メンデルは一八四〇年、一八歳でギムナジウムを卒業する。もっと勉強をつづけたいと思っていたのに、個人教授を受ける希望者がひとりもいないために学費をかせぐことができず、経済的に行きづまった。このときはじめて健康をひどく害し、こうした体の不調をその後の人生でも何度か経験する。くわしいことはわかっていないが、おそらく今日でいう神経症だったのだろう。それもかなり深刻な病状だったため、翌年は故郷の両親のもとで静養しなければならなかった。

メンデルは子供の頃から非常に優秀だったため、生家が貧乏だったにもかかわらず、何とかギムナジウムを卒業させてもらい、大学に入学しました。当時、家庭教師をしながら学費を稼ぐ大学生は少なくなかったのですが、有力者の紹介状を持たないメンデルはなかなか家庭教師の口を見つけることができず、結局、大学で勉強を続けることを断念せざるを得なくなりました。

失望のあまり心を病んでしまったメンデルですが、彼には逆境を打ち破るに足る大きなビジョンがありました。
「科学の知識が世界から迷信をなくす、そのような科学の発展に自分も貢献したい」
これは、ギムナジウムの卒業文集に寄せられた彼の文章です。

「7つの習慣」を提唱した故スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『7つの習慣 最優先事項 生きること、愛すること、学ぶこと、貢献すること』(キングベアー出版)において、「ビジョンは人生のすべてを動かす原動力である」としたうえで、次のように説いています。

「人生に対するより大きな意味を持って生き、愛し、学んでいくうちに、自分に残せる最大の遺産は『ビジョン』であることに気づき始める。子どもたちにしろ、他の人たちにしろ、彼らが自分自身をどう思い、将来にどんな夢を描くかが、私たち全員の生活の質に大きな影響を及ぼすのである」

強固なビジョンを持っていたメンデルは、この後、修道院に入ることを選択します。当時の修道院は単なる宗教施設ではなく、さまざまな教育や研究を行いながら、一般社会に対して指導的役割を果たす機能を持ち合わせていました。
生活と勉強を両立できる場として修道院を選んだ彼は26歳で司祭となり、時に教師として教壇に立ち、またウィーン大学で物理学他多くの学問を学ぶ機会を得るなど、当初の望みどおり学業三昧の充実した日々を送ることができたようです。

●影響できることに集中する

メンデルは政治的な活動や発言にはだんだん慎重になり、科学的な興味に集中して、数多くの多様な方面に関心を広げていった。そのひとつは気象学で、地方有数の気象研究家として広く知られるようになる。(略)地域に気象観測網ができると、メンデルの論文とそこで用いられていた観測の頻度および統計的分析が、観測結果発表の基準になった。

上記の引用は、メンデルが30歳を過ぎ、社会的影響力が増してきた頃の描写です。彼には政府から勲章を授かるなど、政治活動家としての一面もあったようです。
しかし、徐々に本来の科学的な貢献に軸足を移し、遺伝学の他にも気象学や天文学などで業績をあげ、高く評価されました。

メンデルがなぜ政治活動に興味を持ち、そこから再び科学者としての道に集中するようになったのか、そこは想像するしかありません。ただ、自身の資質からして、政治の世界よりも科学の世界のほうがより大きな貢献ができると考えたのではないでしょうか。何よりも彼には明確なビジョンがありました。

コヴィー博士は、前出の『7つの習慣 最優先事項 生きること、愛すること、学ぶこと、貢献すること』において次のように述べています。

「ほとんどどんな状況でも、スキルと能力を磨き、自分の影響の輪の中で仕事をすれば、あなたとあなたの仕事ぶりに対する周囲のパラダイムは変わるはずだ」

どのような貢献ができて、どのような貢献をなすべきか。単に関心があるから行動してみるというレベルではなく、その先の影響までもきっちり考えたうえで行動を起こすことが大切だということです。周囲からの反応を見れば、自分のやっていることの影響力や貢献度は容易に判断がつくはずです。

メンデルがそうであったように、明確なビジョンを持ってスキルや能力を磨き、自身の「影響の輪」の中でしっかり仕事をすることで、より的確かつクリアな貢献というものが可能になるのではないでしょうか。

(参考:『オックスフォード科学の肖像 メンデル 遺伝の秘密を探して』、エドワード・イーデルソン著、西田美緒子訳、大月書店)

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