古典に学ぶタイムマネジメント|110回 ギュスターヴ・エッフェル

パリにおいて最も有名な建造物のひとつにエッフェル塔が挙げられることは反論の余地がないことと思われますが、塔の名であるエッフェルは人物の名前であり、また彼が経営する企業の名前であったことは日本においてあまり知られていないかもしれません。ギュスターヴ・エッフェル(1832-1923)こそが今回取り上げる人物であり、当時のフランスを代表する建築家の1人です。彼が遵守した原則を紐解くことにします。

●始めた仕事を最後までやり遂げる意志によって行動する

金銭への執着よりも、始めた仕事を最後までやり遂げる意思によって私は行動するのだ、ということを彼らに示すため、国旗の掲揚まで仕事を続ける組み立て工全員に特別手当として総額百フランを支給することを約束した。加えて明日正午に出勤していない者は全員解雇し、別の組み立て工に交代すると明言した。 

これはエッフェルがエッフェル塔の建築を受託し、その建築中での出来事。当時彼の会社は作業員に対し他社よりも魅力的な賃金を支払っていたそうですが、それでも不満に思う従業員や、あわよくばさらなる賃金がもらえるのではないかと画策した従業員によりストライキが発生しました。当初は繁忙期に対する一時的な賃金の増額を提示することで対応していたそうですが、その期間が終わるとまた別のストライキが発生し、徐々に建築スケジュールに深刻な影響を与え始めたそうです。

そこで彼は最終的に、プロジェクトの完結まで働くことを誓った従業員には特別賞与を提供し、誓わない従業員には翌日から仕事を与えないという方策を採りました。結果的に大部分の従業員が残留しプロジェクトは無事に完結したのですが、その意思決定においてエッフェルは上記のように述べたそうです。

「7つの習慣」を提唱した故スティーブン・R・コヴィー博士は著書『7つの習慣 原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版)において次のように述べました。

現代の労働者にとって、仕事にやりがいを見出すには意味が必要だ。食べるために働くだけでは満足できないし、待遇が良いからといって、それが企業に留まる理由にはならない。

エッフェルのリーダーシップ・スタイルはまさにこの「なぜ」にフォーカスしたものだったのかもしれません。手厚い待遇=やりがい、ではないし、そのようなパラダイムの労働者はチームに要らない。そのような意思表示だったのかもしれません。現代において「なぜ」を探求する姿勢は、時代がどのようなものになろうとも、そしてポジションがどのようなものになろうとも、最も大切とすべき姿勢のひとつといえるかもしれません。

●政治的スキャンダルへの対応

長びいたこの事業の清算は、すぐさまスキャンダルの対象となった。つまり八年もの歳月と莫大な資金を費やしたはてに、どうしてこのような事態に立ち至ってしまったのか、ということである。早くも一八九二年に問題が、とくに資金上のそれが政治的なものになった。「責任者ら」が追求され、エッフェル自身もそれを免れなかった。

エッフェルはパナマ運河の閘門建築作業を受託し、彼にとっても最大の功績の仕事とするべく、長い時間と多くの金銭を投資してプロジェクトを進捗させます。しかしプロジェクトの主催であるパナマ運河会社の支払中断と清算により、プロジェクトは中止に追い込まれました。しかしこの後、莫大な投資が報われなかっただけでなく、あまりにも莫大な投資がなされたことから政治的な動きを疑われ、エッフェルは有罪判決を受けてしまいました。

この後上級審で棄却され、エッフェルは無実と認められるも、ビジネスに愛想を尽かしたエッフェルはエッフェル社の運営を後任に譲り、身を引くこととします。文字通り政治的な衝突に巻き込まれ自身のなすべき貢献を行う方策を失った彼。ほとんどのビジネス・パーソンが彼のような国家間の政治スキャンダルに巻き込まれることは稀かもしれませんが、現代の企業にはもっと小さなスケールの社内政治がうごめいており、そういった問題に接することは避けられないのは事実です。

根回しや調整が日本企業において最も重要なスキルのひとつとすら述べる経営者もいますが、前述のコヴィー博士は著書『7つの習慣 原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版)において、「質の高い組織」について、次のように述べました。

政治的な駆け引きが充満する沼地を美しい文化的オアシスに変えるには、原則に基づいて、人格と人間関係の基本的習慣を築くことが不可欠である。人格と人間関係は、質の高い組織へ変革していくためのイニシアチブを成功させる基盤なのである。

国家間であれ、社内であれ、信頼関係がビジネスの基礎であり根底にあるという考えに、異論を唱える者は皆無でしょう。しかしそれを理解し、組織に落とし込み、あらゆる従業員からコンセンサスを取るのは至難の業です。しかしそのような組織力こそ、この混沌とした激動の時代において、組織が繁栄するための鍵となることは間違いありません。

『ギュスターヴ・エッフェル パリに大記念塔を建てた男』(アンリ・ロワレット著、飯田喜四郎・丹羽和彦訳、西村書店)

古典に学ぶタイムマネジメント

コヴィー博士の集中講義 原則中心タイム・マネジメント

グレート・キャリア 最高の仕事に出会い、 偉大な貢献をするために

「セルフ・リーダーシップ」で 時代を乗り切る!

ビジネス・パーソンのための ビジネス開発講座|『ヘルピング・クライアンツ・サクシード』に学ぶ、ソリューション開発の原則

ブレークスルー・トーク

アンケート結果に見る 「タイム・マネジメント」

スティーブン・R・コヴィー コラム