フランクリン・ルーズベルト(1882-1945)は、4期当選を果たした唯一のアメリカ合衆国大統領であり、最も功績を残した米国大統領の一人と評されています。1929年の世界恐慌に際してはニューディール政策を実施し、国民との対話を重視したこの政策により、見事、米国経済を立て直しました。世界恐慌から第二次世界大戦へと連なる激動の時代、彼はどのような原則をもとに国家を導いていったのでしょうか。
●とにかくやってみる
私が趨勢を読み違えていなければ、わが国は大胆で持続性のある実験を必要としており、またそれが強く求められています。一つの方法を取り上げて、とにかくそれをやってみる、というのが常道でしょう。その方法がうまくいかなかったなら率直にこれを認め、他の方法を試してみればよいのです。しかしともかく、何かをやってみることです。
F・ルーズベルトといえば、冒頭で挙げたニューディール政策や第二次世界大戦における陣頭指揮など、誰もが知る実績を数多く残しています。だからといって、彼の行った施策のすべてが成功したわけではありません。上記の発言からも、我々同様にトライアル・アンド・エラーを繰り返しながら、大きな成果を積み上げていったのではないでしょうか。
現代社会に目を移すと、企業スローガンでは「失敗は成功の母」と謳っておきながら、実際には些細な失敗も許さず、即座に出世コースから外すようなことはごく日常的に行われています。それを目の当たりにした若手社員はチャレンジすることを恐れるようになり、やがて組織自体が硬直化・弱体化していきます。このような悪循環は枚挙に暇がありません。
小さな失策ですら株主総会で槍玉に挙げられることの多い現状を鑑みれば、いかなるリスクも排除したい、というのが経営者の率直な心情なのかもしれません。
「7つの習慣」の提唱者である故・スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『第8の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、リーダーシップとは環境を育むことである、と述べています。
「リーダーシップとは、人がただ組織のために働くのではなく、組織の一員になりたいと思える環境を育むことである。リーダーシップは、仕事を『やらされる』のではなく『やりたい』と思わせる環境をつくる。このような環境は企業にとって不可欠である。ただ単に職務と役割を与えるのではなく、目的を示さなければならない」
目的を示し、その仕事を「やりたい」と思わせるような環境を醸成すること。長い歴史を持つ大企業が一瞬にして経営危機に陥る時代だからこそ、定着してしまったマインドセットを今一度見つめ直すことは、個人にとっても組織にとっても意味のあることだといえそうです。
●激しい反発を受けながらも「良識ある中道」を行く
エイブラハム・リンカーン以来、これほどの激しい反感と険悪な議論を巻き起こした大統領はいなかった。ルーズベルトは共産主義者からファシストまであらゆる名をもって呼ばれた。しかし、彼は自分はただ良識ある中道をとろうとしているだけだと主張した。彼は航海用語を使って「左舷に雷」、「右舷にも雷」を受けながら、危険な海の上を国家という船で航行していると形容した。
ニューディール政策は「成功者搾取法」とも呼ばれる累進課税制度を内包しており、富裕層からの反感を買ったF・ルーズベルトは、いつしか「憲法破壊者」呼ばわりされることまでありました。まさに「左舷に雷」「右舷にも雷」を受けながら、それでも米国大統領として史上最多の4期当選(現在は原則2期まで)を果たしたのですから、驚くべき胆力です。
国家を建て直す、という明確な信念を持って行動していたF・ルーズベルトにとって、おそらく外野からの批判は取るに足らないものだったのかもしれません。何よりも国民の幸福を願う「ブレない軸」を持ち、それを優先させる強靭な実行力を持っていたことが、周囲からの信頼を勝ち得ることにつながったのではないでしょうか。
前出のコヴィー博士は著書『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)において、ビジョンはすべての原動力であると述べています。
「ビジョンは、人生のすべてを動かす原動力である。ビジョンを通して自分にしかできない貢献を自覚し、情熱を持つことができる。ビジョンは最優先事項を優先する能力、時計よりもコンパスを優先し、スケジュールやモノよりも人を優先する能力を与えてくれる」
ビジネスを通して本当に成し遂げたいことは何か。これは、経営者のみならず、一人ひとりのビジネス・パーソンが意識すべき基礎中の基礎のビジョンです。上司や株主からの評価はもちろん大切ですが、自らのビジョンを差し置いてまで優先すべきものではないはずです。
(参考:『フランクリン・ルーズベルト伝―アメリカを史上最強の国にした大統領』、ラッセル・フリードマン著、中島百合子訳、NTT出版)