IBM(International Business Machines Corporation)といえば世界で最も知られている企業の1つといっても過言ではありません。パンチカード、電子計算機など革新的な開発によって、常に世界を驚かせてきた企業といえます。今回紹介するのは初代社長トーマス・J・ワトソン・シニアの息子であり、2代目社長となったトーマス・J・ワトソン・ジュニア(1914-1993)です。
●独創性あふれる販売手法
エグゼクティブたちに働きかける道具を、父は数多く用意してくれた。『Think』マガジンは、そのもっとも独創的な例と言っていい。これは大変よく編集された総合雑誌で、一ベージ目の下段に印刷されている小さな社名が目につかなければ、IBM発行だということもわからなかっただろう。毎号、巻頭を飾るのは、世界情勢に関する論説で、書き手はもちろん父だった。
意思決定者に直接売り込むことがIBMではモットーとされていたとトーマス・J・ワトソン・ジュニアは語っています。しかし門前払いを食わされることも少なくありません。こういった際に用いられた武器の1つが『Think』マガジンでした。この雑誌がいかに人気を博したかというと、ワトソン・ジュニアによれば、当時の顧客が3,500社であったのに対し、10万人の購読者がいたほどであったといいます。
『ライフバランス 生活にバランスをもたらすためのシンプルな方法』(キングベアー出版)の著者であるリンダ・アイヤー/リチャード・アイヤーが興味深い言及をしています。
「あなたにとって日曜日がレクリエーション(recreation=娯楽)になっているのならば、ちょっとだけ発想を変えて、リ・クリエーション(re‐creation=再び創造する)にしてみましょう」
ビジネスの成果を上げるには、その成果を上げるための「もの」が必要となります。コヴィー博士は、これを「P/PCバランス」と呼んでいますが、この「PC」にあたるものがこの『Think』マガジンといえるかもしれません。「PC」を身につけるには日々の再新再生活動を継続することが必要です。そうすることで、きっとこれまでに見えなかったものが見えてくるようになり、何かしらの変化をもたらすことでしょう。
●サービスを会社の原則に据える
おそらく、リーダーシップの真価が問われるのは、マンモス企業に成長したIBMが冷たい非人間的な会社になるのを防げるかどうか、という点にかかってくるだろうな、と私はフランクに言った。私と父が常に重要視したこまやかな気配りを、彼にもつづけてもらいたいと私は願った。たとえば、社員の細君に花束を送るとか、誕生日に木を送るとか、功績のあった社員に感謝の手紙を送るとか。「それは過大な配慮というわけじゃないんだ。(略)IBMは、根本的には、サーヴィスを旨とする会社だからね。人間的なタッチが濃くなればなるほど、社員や顧客も好感を持ってくれるものさ」
上記を読むと、トーマス・J・ワトソン・ジュニアがサービスをIBMの原則の1つに挙げていることがわかります。これをしっかり守り続けてきたことも、同社の継続的な成長の一因であったのでしょう。
この話は、まさに『7つの習慣 成功には原則があった!』で述べられている「信頼残高」の原則そのものではないでしょうか。
「社員や顧客も好感を持ってくれる」とは、信頼関係を築くことであり、そのためには、普段から少しずつ「信頼残高」を増やしていく行為が重要となります。
トーマス・J・ワトソン・ジュニアは、今、私たちが何を重要視するべきかを、再考するきっかけを与えてくれているような気がします。
(参考:『IBMの息子―トーマス・J.ワトソン・ジュニア自伝』(上下巻)、トーマス・J.ワトソン・ジュニア著・高見 浩訳、新潮社)