ダーウィンの進化論といえば、生物の進化を解明する方向性を示した画期的な理論として、今なお生物進化の前提とされています。提唱者である英国の自然科学者、チャールズ・ダーウィン(1809-1882)とは、いったいどのような人物だったのでしょうか。
●何事においても最低限の知識を身につける
私がケンブリッジで過した三年間というものは、学問研究という面にかんするかぎり、エジンバラ時代や学校時代と同じく私にとっては完全な時間の浪費であった。私は数学の勉強をしようとし、1828年の夏には、家庭教師(実に退屈な人だったが)といっしょにバーマスヘ行きさえした。しかし、遅々として進まなかった。この勉強は、主として代数の初歩にどういう意味があるのかわからなかったために、私にはいやな仕事であった。このように短気になるのは非常に愚かなことであって、後年私はせめて数学の大きな主要な原理を理解するところまでやっておかなかった事を深くくやんだ。というのも、そういう才能を与えられている人は余分の感覚を持っているように思えるからである。
難問を解決するためには、前提として知っておかねばならないことがいくつもあります。たとえば、経営を学ぼうとするならば、四則演算ができないようでは何も理解することはできないでしょう。ダーウィンがここでいう「余分の感覚」というのは、そういった基礎的な素養を幅広く身につけていることを指していたとも考えられます。そういった人はさまざまな事象に取り組む準備ができていることになります。
ここで思い出されるのは、スティーブン・R・コヴィー博士が著書『7つの習慣 成功には原則があった!』の中で指摘していた「成長のプロセス」です。
コヴィー博士は「ピアノを習い始めたばかりなのに、さもコンサート・ホールで演奏会を開ける腕前があるかのようなふりをし、友達にもそう信じこませたらどうなるか」と問いかけています。答えは明白でしょう。
プロセスを踏むことなくして飛躍はあり得ません。ダーウィンほどの人物でも、上のような失敗を犯し、自伝に記すくらい悔やんでいたとは、興味深いことだと思いませんか?
●謙虚さの重要性
その事務長は船の仲間のためにラムを買いに、リオデジャネイロのある店に行っていた。そこへ平服を着た小柄な紳士が入ってきた。事務長はその人に言った。「あなた、このラム酒を味わって、意見を聞かせてくださいませんか」。紳士は請われたようにして、すぐに店を出ていった。すると店の主人が事務長に、あなたがいま話していたのは港に入ったばかりの艦隊の艦長だったのをご存じですかとたずねた。哀れにも事務長はおびえて口が聞けなくなってしまった。かれは手に持っていた酒のグラスを床に落とし、急いで船に帰りそして、アドヴェンチャー号の士官が私に確信したところでは、いくら説得されても、慣れなれしくしてしまったあの恐ろしい行為の後で艦長に会ってはという恐怖から二度と下船しなかった。
これはダーウィンが英国海軍の測量船「ビーグル号」に乗って、地理学者として外地調査に出向いた際に聞いた話だそうです。どんなときも、どんな相手に対しても、常に謙虚にふるまうことは難しいものですが、謙虚であることの重要性は現代でも全く変わりません。たとえば、いくら無礼講といっても、相手もまた一人の人間であるということを尊重すべきですし、その一線を踏み越えていいケースがあると考えるべきではないでしょう。
こういったことは、表面的なテクニックとしてではなく、体の内側からごく自然に発揮されるものでなくてはならないと、コヴィー博士は指摘しています。
「人間関係において最も大切な要素は、言葉でも行動でもない。自分がどういう人間であるかということだ」(『7つの習慣 成功には原則があった!』)
もちろん、テクニックを身につけることは重要ですが、それ以前の準備段階として、原則を理解し、常に意識することが大切なのです。
(参考:『ダーウィン自伝』、チャールズ・ダーウィン著、八杉龍一/江上生子訳、筑摩書房)