米国ニュージャージー州生まれのレスター・ブラウン(1934-)は、現代における環境活動家の先駆けとも称される人物です。ハーバード大学卒業後、農務省に入った彼は、業務を通して環境問題に危機感を覚え、同志らとともに「ワールドウォッチ研究所」を設立。1984年からは毎年『地球白書』を刊行するなど、独自のスタンスで地球環境問題に取り組んでいます。日本においても一橋大学から名誉博士号を送られており、「世界で最も影響力のある思想家の一人」と評されています。
●本から学ぶ
差し当たっては、私は学校生活を楽しみ、貪るように本を読みました。図書館で読書をしたいがために、宿題はとにかく早く終わらせていました。(中略)私の成績表には「彼の読書量は群を抜いて多く、とりわけ歴史に関する本の選択には、とても感心しています。(中略)ただし、少しペースを落とす必要があります」と、記入されていました。
(中略)年間一〇〇冊以上を読んだ年もありました。アメリカの「建国の父」をはじめとした伝記に、とりわけ興味を持ちました。(中略)小学校を卒業するまでに、図書館の本はほとんどすべて読んでしまったのです。
読書はいつの時代も、私たちに大いなる知恵と想像力を授けてくれる素晴らしいツールです。なかでもレスターがとりわけ興味を持った伝記は、過去から学び、現在を考察し、将来へと希望をつないでいくための知識の宝庫といえるでしょう。
引用にもあるように、「小学校を卒業するまでに、図書館の本はほとんどすべて読んでしまった」という、尋常ではない読書量が彼に与えた影響の大きさは計り知れません。このときに得た莫大な知識によって、彼の中の価値観、そして原則への考え方が決定づけられていったのではないでしょうか。
故スティーブン・R・コヴィー博士は著書『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)の中で、原則について次のように指摘しています。
「何かに失敗したり、ミスしたりすると、つまり『原則』が試される状況にぶつかると、『この経験から何が学べるのか』と私たちは考える。原則に目を向け、原則から学ぼうとする。そして、どこで原則に背いたのかがわかれば、弱さを強さに変えられる」
小学生だったレスターに、このような自覚があったかどうかはわかりませんが、読書という行為を通して彼の人生の礎が築かれていったことは確かなことでしょう。本から学ぶこと、そして学び続けることは、我々の人生を豊かで強固なものにしてくれます。
●人員と組織のミッションの一致がもたらす「やりがい」
設立当初の日々は、構想してきたことを現実のものにするという、胸躍るような高揚感に満ちていました。(中略)目標は、一般読者にも読みやすく、一方、内容のレベルは科学雑誌にも採用され、またマスメディアの関心をとらえるタイムリーなものであり、さらには有能な政策立案者にとって不可欠な出版物を制作することでした。私たちは、だれもが、この挑戦の楽しさに夢中になっていました。
これは、レスターがワールドウォッチ研究所を設立した当初の描写です。人員と組織のミッションが一致することで、どれだけのパワーが生まれるのかを窺い知ることができます。
どんな組織も、設立当初はこのような高揚感に包まれていたはずなのに、自ら掲げたはずの理念やミッションに反した不正行為は、今も昔も後を絶ちません。どうしてこのようなことになってしまうのでしょう。
前述のスティーブン・R・コヴィー博士は著書『7つの習慣 原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版)の中の「なぜ働くのか」という項目で、以下のように述べています。
「企業のミッション・ステートメントは、その企業の存在理由を示すものである。現代の労働者にとって、仕事にやりがいを見出すには意味が必要だ。
『なぜ?』これがキーワードだ。現代の組織の成功には、意味が不可欠なのである」
つまり、我々ビジネス・パーソンには「やりがい」を促すための「ストーリー」が必要だということです。
なかなかモチベーションが上がらないと感じるのであれば、当たり前のように取り組んでいる日々のルーティンワークの一つひとつにも何らかの意味があり、その先には企業のミッションが息づいていることに着目してみてはいかがでしょうか。
さまざまな業務の「意味」を再点検してみること、そして、その「意味」を自身で見つけ出し、自分が働くための意気や意義へと変換させていくこと。そうした意識的な行動が「やりがい」をもたらし、個々のバリューを高めることへとつながっていくのかもしれません。
(参考:『レスター・ブラウン自伝 人類文明の存続をめざして』、レスター・ブラウン著、林良博・織田創樹監訳、ワールドウォッチジャパン)