古典に学ぶタイム・マネジメント:57回 カール・フリードリヒ・ガウスに学ぶ

18世紀から19世紀にかけ、偉大なる足跡を残した数学者、カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)をご存じでしょうか。たとえば、磁場の強さを表す単位「ガウス」は彼の名前に由来するものですし、統計学で多用される正規分布も、彼にちなんで「ガウス分布」と呼ばれることがあります。近代数学全般に多大な影響を与えただけでなく、天文学や物理学の分野でも多くの功績をあげた知の巨人、それがガウスです。

●異なる角度から物事を捉える

ビュットナー(訳注:ガウスの小学校の算数教師)は、あるとき1から100までのすべての数を書き、これを合算するという問題をこのクラスに課した。(略)ガウスは課題をあたえられるや否やそのテーブルの上に自分の石板をほうりだして、ブラウンシュヴァイクの粗野な方言で「でけたよ」と言った。(略)しかしついに彼はガウスの石板にたった一つの数しか書かれていないのに気づいた。それは正しい答であった。(略)「100+1=101, 99+2=101, 98+3=101というふうに二つずつ足します、これが100のなかの対だけありますから、答は50×101つまり5050です」

これは、多くの生徒が正面から解を導き出そうとするなか、ガウスだけが「等差数列」の考え方を用いて難問に即答したという、有名なエピソードです。

ガウスの優秀さは幼少時代からずば抜けており、この中に出てくる教師のビュットナーは後日、「もはや自分には教えるべきことがないことがはっきりわかった」と語っているほどです。

しかし、実はこの解き方、掛け算さえできれば、誰にでも思いつく可能性があります。つまり、このような数学においてさえ、解にたどり着くために重要なのは、すばやい計算力よりも、むしろ卓越した着眼点だというわけです。

ガウスのように、物事を普通とは異なる角度から捉え、実践や成果につなげる能力は、現代社会においても強く求められる能力の1つ。そうした能力の落ち主は「クリエイティブ」であると高く評価され、どのような組織あるいは部署でも、歓迎され、また重宝されます。

とはいえ、こういったクリエイティビティを磨き、その能力を伸ばしていくのは、容易なことではありません。来る日も来る日も、さまざまな方向へアンテナを張り、常に新しい情報を仕入れ、自身の中で取捨選択し、いつでも取り出せる状態にしておくこと。それをひたすら続けていく以外に、おそらく道はないでしょう。

この分野への投資は、時間や手間暇を考えると非常に困難を伴いますが、コヴィー博士の言葉を借りれば、「極めて重要な活動の1つであるため、無視している余裕はない」ということになります。つまり、どんなに大変であろうとパスするという選択肢はない、それほどに意味のある投資であるということです。

●原則に忠実に生きる

貧しい両親の間に生まれた子として、彼は当世風のぜいたくや洗練されたことにはなれなかった。彼の簡素な欲求を賄うにはその若い時代の乏しいてだてで十分であった。彼は節約を実践し、雨の日のために「巣留の卵」をたくわえておいた。彼は他人から財政的援助を受けることには躊躇した。全生涯を通じ彼は名誉と知的独立性の感情に忠実であった。(略)彼の欲求は簡素であり、物的資産はときに学術的な仕事を撹乱するような影響を及ぼすことがあるというのが彼の考えであった。

コヴィー博士が最も力を込めて主張した概念の1つに、原則に対し忠実に生きることの大切さがあります。

「私たちは『原則に基づいているだろうか』と常に自問しなければならない」とは、コヴィー博士の著書『第8の習慣 効果から偉大へ』(キングベアー出版)の中にある言葉ですが、上にもあるように、ガウスはまさしくそれを実践していた人物でした。貧しい煉瓦職人の家に生まれた彼は、数学者として成功してからも贅沢や派手な交遊を好まず、厳粛な人柄であったと伝えられています。

インターネットを中心に、さまざまなブレイクスルーが起こり、私たちのパラダイムの多くはあっという間に転換しました。時間やエネルギー、金銭といったリソースの遣い途は、今や百花繚乱の趣を呈するに至り、一見、私たちの活動の幅は広がり、生活も豊かになったように見えますが、その分、選択が困難になったという見方もできます。

生きていく上で、私たちは「何かをすること」と「何かを諦めること」、そのどちらかを常に選択し続ける必要があります。

選択肢が多様化し、もはや溢れ返っているといっていい現代。絶え間なく選択を迫られることへのプレッシャーと苦悩は、私たちに重くのしかかり、自殺率がこれまでになく増加している状況などを鑑みると、今の「豊かさ」は目指すべき方向性を誤っているのかもしれません。

情報や選択肢の洪水の中、今こそ、原則に立ち返り、本当に必要なものを洗い出す作業が必要なとき、といえそうです。余分なものを捨てて身軽になること。原則を中心に据えてシンプルに行動すること。ガウスが生涯を通じて実践したそんな生き方こそ、この複雑怪奇な現代を生き抜く解決策の1つといえるのではないでしょうか。

(参考:『ガウスの生涯 科学の王者』、ダニングトン著、銀林浩・小島穀男・田中勇訳、東京図書)

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