エーゲ海に浮かぶサモス島。この島で紀元前850年ごろに産声を上げたピタゴラスは、「ピタゴラスの定理」で知られる、数学の世界において最も偉大な貢献をした1人です。ピタゴラスと彼の弟子たちで構成される「ピタゴラス学派」が成した発見は、すべてピタゴラスの発見とされていたため、どこまでが彼自身の発見なのかはわかりませんが、ピタゴラスの定理のほかにも、幾何学、天文学、数論、音楽の世界において数多くの発見を成し遂げました。地球が完全な球体であることを導き出したのも彼らとされています。
今回紹介するのは、ピタゴラスの資料からポルピュリオスが選出したピタゴラスの言葉です。現代のビジネス・シーンにも通用するものをピックアップしました。
■毎夜の反省と毎朝の計画
また、とりわけ二つの時機(カイロス)に(その時機を逸しないように)留意せよ、と彼は勧めた。一つは眠ろうとするとき、他は眠りから目覚めて起床しようとするときである。このそれぞれの機会に、すでに行われたこと、あるいはこれから行おうとすることを検討しなければならない。つまり(今日)自分によって行われたことの一つひとつを取り上げて反省し、また(今日これから)行おうとしていることの計画を立てるのである。だから各人は入眠前に次の詩句を自分に向かって誦しなければならない。
今日一日の我が行為、一つひとつの反省を、三度行う以前には、
我が柔らかき両眼に眠りを受けることならじ。
我いずこにて過ちしか。我何ごとをなしたるか。なすべき何を果たさざりしや。
また起床する前に次の詩句を。
心に甘き眠りから目覚むればまずよく計れ。
いかなる業を今日この日、汝は果たすべきなりや。
毎日の反省をしっかりと行い、そして今日何をすべきなのかをきちんと計画することの重要性を説いています。
スティーブン・R・コヴィー博士の説く「7つの習慣」においても、第三の習慣は「重要事項を優先する」です。自分の人生における目的=大義を達成するためには、深い自省と将来に対する適切な計画が必要になってきます。それこそが「重要事項を優先すること」です。常に物事の緊急性と重要性を考え、緊急性だけではなく重要性の観点から物事に優先順位をつけていくことが必要なのです。
ちなみにコヴィー博士はその優先順位をつけるタイミングについて以下のように述べています。
毎朝、数分間自分のスケジュールを見て、1週間の目標を振り返り、自分の今直面している状況を再確認する。今日という1日を全般的に考え、優先すべき役割と目標を確認し、そして自分のミッションを念頭に置きながら、新たに出てくる問題や機会に対応していけるようにする。
■人生の完成へ向かって
一つひとつの行動の積み重ねが、君の人生を完成に向けて前進させる。だから、個々の行動が可能なかぎりうまくいったのであれば、君は満足すべきである。君が目的を達成することは、誰にも止めることはできない。(略)
たとえ君が力を失ったとしても、その事実を君が受けとめ、べつの能力に関して惜しまず努力を傾けるなら、ただちにチャンスが到来するだろう。そしてそれは、君が追い求めている人生の完成に向かって、自然と適応したものになってゆくことであろう。
これは、日々努力を続けることの重要性を説いています。
うまくいっているときは、その状態に満足すればいいし、たとえうまくいかなくても、状況を受け入れ、その状況の中で努力を続けることが大切だとしています。
注目すべきは、「君が追い求めている人生の完成に向かって、自然と適応したものになってゆく」としている点です。日々の努力の積み重ねによって、必然的に正しい方向へと導いてくれるということなのでしょう。
(参考:『ピタゴラスの定理』、大矢真一著、東海大学出版会、「ポルピュリオス『ピタゴラスの生涯』」、水地宗明訳、晃洋書房)