今月は、マービン・バウワー(1903-2003)の『マッキンゼー経営の本質』(ダイヤモンド社)を紹介します。
彼はハーバード・ロースクールとハーバード・ビジネススクールを卒業後、弁護士事務所に入れました。しかし多くの企業経営者が法律問題だけでなく、経営問題にもアドバイスを求めていることを痛感します。そこで、今では世界最高峰の経営コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーへパートナーとして入社しました。
当時は経営コンサルティングといえば、老練な元経営者が後輩にアドバイスを送るという程度のもので、若手のコンサルタントが活躍する現代では考えられない状況だったそうです。現在のコンサルティング概念を確立し、マッキンゼー・アンド・カンパニーを世界有数の経営コンサルティングファームに育て上げたのは、マービン・バウワーといっても過言ではありません。
彼の著作である本書は、1966年に出版された企業経営論の古典的名著といえる一冊です。
【競争に長けた経営者の特徴】
- 時間を無駄にせず、素早く行動する。時間を最も貴重な資源と心得ている。つまらぬことに時間を割かず、ひたすら目的達成を目指す。(中略)
- 迷いがない。事実を集めて十分に考え抜いたら、すぱっと決断を下す。自分は間違いを犯すかもしれないが、ライバルだってそうかもしれないとわかっているので、無用な先送りよりも間違えるリスクを敢えて冒す。誤りを正す機会に注意を怠らなければ、時間を味方につけられることを知っているからだ。
(中略)
「今やる」を常に心がけることが、競争の激しい利潤追求型経済で成功を収める秘訣の1つと言えるだろう。経営システムが顧客のニーズに応え仕事の満足度を高める最高の手段となるためには、テクニックより「今やる」姿勢が役に立つ。
「経営理念」の章において、彼は競争に長けた経営者の特徴をこのように紹介しています。有能な経営者ほど、貴重な時間を最大限に活用し、無駄な時間を送るようなことはしません。そして何よりも「行動」することの大切さを知っています。判断の速さは当然ながら、すばやい行動が成功の秘訣であるとバウワーは説いています。
終盤の「事業計画」の章において、彼は実行の大切さ、難しさを次のように語っています。
【アクション・プログラムの難しさ】
アクション・プログラムは事業計画の中心的な要素であり、これがあって初めて事業計画は単なる予想や卓上の空論ではなくなる。アクション・プログラムは、その名前からして何らかの行動を起こすことである。そしてこれこそが経営の最も重要で最も難しい要素であり、何かが起こるに任せ、起きたあとで対処する姿勢と峻別されるべきものである。
企業経営の基本的責任は、このアクション・プログラムに凝縮されるとさえ言っていいだろう。
ユダヤ人で唯一、イギリスの首相となったことで有名なベンジャミン・ディズレーリも以下のように述べています。
行動が常に幸福をもたらすとは限らないが、行動しないで幸福になることはあり得ない。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの繁栄とバウワーの経営コンサルタントとしての成功は、彼の頑固なまでの経営に対する意志が根底にあります。その1つが貴重な時間を無駄にしない、すばやい行動力にあったと言えるでしょう。