古典に学ぶタイムマネジメント|99回 松平定信

今回、着目するのは、第11代将軍・徳川家斉の下、「寛政の改革」を指揮した老中・松平定信(1759-1829)です。江戸時代の三大改革として、享保の改革、天保の改革、寛政の改革をご記憶の方も多いでしょうが、これらの改革には将軍のブレーンである老中の存在が大きな位置を占めているものです。中でも、第8代将軍・吉宗の孫にあたる定信は、第10代将軍・家治の老中として権勢をふるっていた田沼意次との反目関係など、小説やTVドラマの題材として扱われることも多く、今なお、存在感を放っています。松平定信とは、どのような志を持つ人物だったのでしょうか。

物価の安定

天明七年(1787)六月二九日には酒造制限を以前よりも強化して、米の消費を制限するとともに、江戸では勘定所御用達を用いて米殻の融通を促進させている。しかし、のちに米価が下がると、寛政元年(1789)二月には彼らに買米を行わせて、価格の引き上げを図っている。

1787(天明7)年、老中首座・将軍輔佐の地位に就いた定信は、幕政を再建するにあたり、まずは物価の安定を目指しました。前任者・田沼意次による重商主義政策および商家との癒着、さらには近世最大の飢饉とされる「天明の大飢饉」により、弱者である庶民の生活が疲弊しきっていたからです。
当時、幕府がこのような経済政策を行うことは、一般的なものとはいえませんでした。現代とは異なり、効果の予測が困難な時代のこと、打つ手が成功する保証はどこにもなく、すべてが試行錯誤であったはずです。英国のアダム・スミスが「見えざる手」などの表現を用いて、資本主義原理を説いた画期的な経済書『国富論』を発表したのが1776年のことですから、それからわずか10年余りで、定信は革新的な国内経済政策に乗り出したことになります。

「7つの習慣」の提唱者である故スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『第八の習慣 「効果」から「偉大」へ』(キングベアー出版)において、あらゆるパラダイム・シフトは一人の選択から始まると述べています。

「組織文化の大転換、長期にわたり成長、繁栄し、世界に貢献し続けられる偉大な組織を築いた大転換のほとんどは、ひとりの人間の選択で始まっている。(略)彼らの人格、能力、率先力、プラスのエネルギーが他の人々を鼓舞し、奮起させたのだ」

世界最高の起業家とも呼ばれるイーロン・マスクなど、多くのカリスマがなぜカリスマ的存在となり得たのかといえば、常に壮大なビジョンを抱き、革新的な行動を選択し続けてきたからでしょう。それは定信も同じです。自らのビジョンを臆せず実行に移したことが、彼の名前を今に残す結果へとつながっていることは疑うべくもありません。


未来に投資する

それまで家臣は各自の師匠の塾に通って学んでいたが、はじめて藩立の学問所を城内の会津町に設立している。そればかりか、学問を志す者を城に集めて、自ら月に二回「大学」を講じている。

定信は、飢饉対策、倹約政策、賄賂人事の廃止などの改革を進めていきましたが、中でも、「目安箱」の設置により民衆の不満を吸収して政策を広く浸透させたこと、上にもある「大学」の設置により若手藩士の学力を向上させた成果は高く評価されています。

教育を行き渡らせ、藩の知識レベルを向上させることが、いかに有益であるかは想像に難くありません。しかし、その費用や制度整備に費やす労力は並大抵のものではなかったはずです。
現代においても、人材開発におけるコストは資産科目ではなく費用科目として処理されます。人材開発がなかなか投資として認識されない状況は、今も昔も変わらないのかもしれません。

前出のコヴィー博士は、著書『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)において次のように述べています。

「時が流れていくうちに、黙っていても植物は育つ。しかし、庭の手入れをこまめにするかしないかによって、美しい庭になるか、雑草だらけの庭になるかが決まるのだ」

GEやサムスンといった世界を代表するリーディング・カンパニーが、社員教育に莫大な投資を行っていることはよく知られています。定信もまた、未来を見据えた投資を行うことで、自らの膝下である藩の再生、さらには江戸幕府の隆盛を目指したのでしょう。組織が何もしなければ優れた人材を輩出し続けることが困難になること、そうなれば国の将来も危うくなることを、恐らく定信はよく理解していたのではないでしょうか。

(参考:『松平定信』、高澤憲治著、吉川弘文館)

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